皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。2024年も始まりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。決して明るいとは言えない世情に加え、ここ石川県では大地震の影響が各地に出ており、やや大変です。ですが、今年度も是非よろしくお願いいたします。
新年最初となる今回は、再び一押し入試問題シリーズから始めていきましょう。年の瀬年の頭で鈍った頭を凝りほぐす、頭の体操みたいな問題を持ってきました!
目次
さて、今回テーマにするのは一橋大学で1981年に出題された問題です。
連続している2個以上の正の整数がある。これらの和を\(S\)として、次の問に答えよ。
(1)\(S=64\)にはなりえないことを示せ。
(2)\(S=200\)となるとき、これらの整数の最小数、最大数はそれぞれいくらか。
これまで取り上げてきた問題に比べて、ちょっと意味が分かるぞ! という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ここでいう「連続している2個以上の正の整数」というのは、例えば\(2,3,4,5,6\)のような、順番を飛ばさず並んでいる数のことです。そして、これらの和を考えるのですから、\(2,3,4,5,6\)でしたら\(2+3+4+5+6=20\)になるわけですね。
そして、(1)で言われているのは「どんな風に連続している正の整数を選んでも、和が64にはならないということを示してほしい」ということで、(2)は「連続している正の整数を上手く選んだら和が200になったよ。並んでいる中で一番小さい数と一番大きい数は何か教えてほしい」ということです。
どうでしょう、なんだか簡単そうな気がしませんか?
コタツに刺さりながらでも、ちょっとした作業の休憩時間とかにも考えやすい良い問題だなと私は思っています。紙と鉛筆は欲しいですが……。
さて、では解いていくことにしましょう。
\(S=64\)にならない理由……と言われましても、中々すぐにピンとは来ないものです。
そういう時は実験するのもよいでしょう。適当な連続する正の整数の和をとってみて、何か感じるものがあればそこを手掛かりに問題を掘り進められますからね。
でも、今回はそんなことをしなくても大丈夫。少しスマートな方法があります。この方法は、ガウスという数学者とセットで語られることが多いので、ちょっとその話をしましょう。
1777年、ドイツ[1]のブラウンシュヴァイクにカール・フリードリヒ・ガウスは生まれます。彼が77歳で亡くなるまでの間に成した仕事は数多く、発表された成果だけでもその重要性は計り知れません。未発表のものまで含めるなら、一体その目はどこまでを見通していたのか末恐ろしくなるほどの発見すらしています(四元数や非ユークリッド幾何学の発見など)。
さて、これはそんなガウスがまだ幼かったころの逸話です。
当時ガウス少年を教えていた学校の教師は、授業中に次のような和を計算させたそうです。
\(1+2+3+…+100\)
要するに、1から100までの整数の和ですね。まともに足すのは面倒な、嫌な問題です。実際、この教師も生徒が答えを出すまでには相当時間が掛かるだろうと踏んでいたのだといいます。
しかし、ガウスはなんとこれに一瞬で答えを出してしまいました。「5050」というその答えは確かに正しく、如何様にして瞬時にこのような答えを出せたのか、教師は訝ったに違いありません。
とはいえ、この”トリック”は非常に単純です。ガウスはまず、「\(1+2+3+…+100\)」と、それを逆から書いた「\(100+99+98+…+1\)」を見比べてみました(ひっくり返しただけですから、和は変わりません)。
そして、この2つの数列を”上手く足し算する”ことを考えつきます。具体的には、それぞれの先頭の数同士を足して、次に、その次の数同士を足して……という操作を繰り返すとどうなるか考えたのです。
つまり、\(1+100、99+2、98+3、…,100+1\)という計算を考えたのですが、簡単に分かる通り、これらの答えはすべて101になります。つまり、「…」で省略された部分も含めると、\(101\)という値になる計算式が、100個できたことになります。
以上を合わせて、「\(1+2+3+…+100\)」と「\(100+99+98+…+1\)」を足し合わせると、\(101×100=10100\)になることが分かりました。求めるべき「\(1+2+3+…+100\)」の答えは、これの半分ですから、\(10100÷2=5050\)と求まるのです。
これを幼少期に考え付いた(一説には7歳の頃とされています)ガウスの鋭さには、もはや畏敬の念すら感じますね。ともあれ、話を我々が解くべき問題に戻しましょう。
我々が知りたいのは「連続した正の整数の和は64にならない理由」でした。このままだと扱いにくいですから、「連続した正の整数」という表現を「\(n\)という正の整数からスタートして、\(m\)個並んだ整数たち」という表現に改めます。
これは、\(n,n+1,n+2,…,n+(m-1) \)という\(m\)個の整数の和を考えるということです[2]。何か分からないけど、スタート地点になる数を\(n\)と呼ぶことにして、それに1 足した数、2 足した数、…、\(m-1\)を足した数、の合計\(m\)個の数を足し算することにしよう! という感じです。
こうやって名前を付けると、見通しが良くなるんです。
では実際に、以下の和を考えます。
\(n+(n+1)+(n+2)+⋯+(n+m-1)\)
ガウスに倣うと、これを逆に書いた数の列を考え、最初の数同士を足して、次の数同士を足して……とやっていくんでした。では、上の和と、それを逆に書いた以下の和
\((n+m-1)+(n+m-2)+(n+m-3)+⋯+n\)
の先頭同士、次の数同士、……を足していきましょう。正しく計算できていれば、その和は\(2n+m-1\)になるはずです。そして、これが答えになる数式が\(m\)個並んでいるので、上の2つの和の合計は以下の通りになります。
\((2n+m-1)×m=m(2n+m-1)\)
この半分が、今回我々の欲しい値です。つまり、「\(n\)から始めて\(m\)個並んだ数の和」である\(S\)は、以下のように表せます。
\(S=\frac{1}{2}m(2n+m-1)\)
さて、これが64になるとすると、以下のような関係式が成り立ちます。
\(\frac{1}{2}m(2n+m-1)=64\)
整理して、
\(m(2n+m-1)=128\)
を得ます。128は2の7乗なので、書き直しておきます(これは今後考える時にこうしておいた方が見やすいからです)。
\(m(2n+m-1)=2^7\)
この式から何が分かるでしょうか。実は、 \(m\)が偶数か奇数かで分けて考えると、新しい事実が分かります[3]。
▶mが奇数だとすると……
このとき、\(2n+m-1\)は(偶数)+(奇数)-(奇数)なので、結果として偶数になります。つまり、奇数である\(m\)と、偶数である\(2n+m-1\)の積が、\(2^7\)になるよというわけなのですが、実はこれらの情報から\(m\)の候補はただ1つに絞られます。
まず、\(m\)は奇数と仮定しましたから、2で割れることはないです。また、もし\(m\)が3以上の奇数で割れるとするなら、\(m(2n+m-1)=2^7\)という式が成立することはないはずです(左辺は3以上の奇数で割れるはずなのに、右辺は割れないから)。
以上より、\(m\)は3以上の奇数で割れない奇数……要するに、1でしかありえないことになります。でも、これっておかしいんです。なぜなら、「\(n\)から始めて\(m\)個並んだ数の和」を考える、という文脈で\(m\)という数は定義されていますが、\(m=1\)ということは、「\(n\)から始めて1個並んだ数の和」を考えることになってしまいます。ところが、今回考えるのは連続して並ぶ「2個以上」の正の整数の和であることが、問題文でも言及されています。
つまり、\(m=1\)という状況はルール違反なのです。
以上より、\(m\)は奇数ではありえない、ということになります。
▶mが偶数だとすると……
このとき、\(2n+m-1\)は(偶数)+(偶数)-(奇数)なので、結果として奇数になります。つまり、偶数である\(m\)と、奇数である\(2n+m-1\)の積が、\(2^7\)になるよというわけです。
上と同じ理屈で考えていくと、\(2n+m-1\)の値としてあり得るのは1しかないことがお分かりいただけると思います。そして、掛け算している片方が1であるなら、\(m\)の値としてありえるものは\(m=2^7\)しかありえません。
まとめると、\(m\)と\(n\)は以下の関係式を満たしています。
\(2n+m-1=1\)
\(m=2^7\)
これを解こうと試みても、\(n\)の値が負になってしまいます(\(n={-2^6}+1=-63\))。今回考えているのは連続する2個以上の「正の整数」なので、これでは条件を満たしません。
つまり、\(m\)は偶数でもありえません。
ここまでの考察から、\(m\)は奇数でも偶数でもありえない、ということになってしまいます。しかし、\(m\)は2以上の正の整数でしたから、必ず奇数もしくは偶数のどちらか一方に属しているはずです。これは矛盾ということで、\(S=64\)になることはないと言えるわけです。
この問題のポイントは、「連続した2個以上の整数の和」という\(S\)の条件を、\(n\)と\(m\)という文字を導入して具体的に考えてみることにあります。1文字が2文字になると、やや複雑になるような印象を受けますが、思い切ってやってみると法則性や糸口が掴めることも多々あるのです。
[1] この百年ほど後には、同じくドイツにて時代をけん引した数学者、ダフィット・ヒルベルトも生まれます。この時期のドイツ、アツい。
[2] 「あれ、\(n+m\)までじゃないの?」と思った方はよく数え直してみてください。\(n\)から始めて\(n+(m-1)\)まででちょうど 個になります(\(n\)を\(n+0\)とみればズレに気付きやすいです)。
[3] 「何で急に偶奇を考えるんだ」というのは非常に良い疑問で、この疑問が解消されると整数問題における視点が広がります。ですが長さの都合上、この理由についての説明はカットさせていただきます。申し訳ない!
では、(2)です。こっちの方が「問題文でこんな風に訊いてるということは、和が200になるときがどこかにあるはずだから、適当に探してれば1個くらい当たるんじゃないの?」という感じがしますね。
実際、探してみて見つけた人もいるんじゃないでしょうか。お正月のコタツでペンを動かしていればあり得ない話でもないでしょう。
でも、今回は勘で見つけたらそれでいい! ってわけでもないんです。その理由をまたお話していきましょう。
さっきの問題で、\(S\)を利用しやすい形で定義しなおしましたよね。それを上手く使ってみましょう。\(S=200\)になるということは、こういうことです。
\(\frac{1}{2} m(2n+m-1)=200\)
つまり、こういうことです。
\(m(2n+m-1)=400\)
整理して、
\(m(2n+m-1)=2^4×5^2\)
を得ます。さて、これもさっきと同様に\(m\)の偶奇で場合分けしましょう。
▶mが奇数だとすると……
先ほどの通り、奇数である\(m\)と、偶数である\(2n+m-1\)の積が、\(2^4×5^2\)になるよというわけなのです。\(m\)は奇数なので2では割れないですから、\(m\)の候補は5か\(5^2\)となります。さらに実際は\(m\)と\(2n+m-1\)の大小関係から候補は5のみに絞られます。
これに対応して\(2n+m-1\)の値も\(2^4×5\)と決まります。実際に計算してみると、\(n=38\)と計算できます。つまりは、「38からスタートして5個連続した整数の和」は200になるというわけです。実際に試してみると、確かに\(38+39+40+41+42=200\)で、上手くいっているのが分かります。
▶mが偶数だとすると……
こちらは、偶数である\(m\)と、奇数である\(2n+m-1\)の積が、\(2^4×5^2\)になるよというわけです。\(2n+m-1\)は奇数ですから、\(m\)が\(2^4\)で割り切れないと矛盾してしまいます。後は\(m\)が5で何回割り切れるかがポイントですが、\(m\)と\(2n+m-1\)の大小関係から\(m\)の候補は\(2^4\)しかありえないことが分かります(気付かなかったら全パターン試してみても良いと思います)。
このとき、\(n\)の値を計算すると、\(n=5\)であることが分かります。つまり、「5からスタートして16個連続した整数の和」が200になることが分かります。実際に試す……のはやや大変ですが、\(5+6+7+…+20=200\)が分かります。
よって以上より、\(S=200\)になるような2つ以上の連続した整数の和は実は2つ存在し、片方の最小数と最大数はそれぞれ\(38\)と\(42\)で、もう片方の最小数と最大数は\(5\)と\(20\)になるというわけでした。問題文の条件だけでは2つあることは全く示唆されていませんから、勘で1つ見つけただけでは意味が無いことがお分かりいただけると思います。また、もし適当に2つ見つけたとしても、それ以上条件を満たす整数がないことを証明できたことにはなりません。
論理だけがこの答えを導く唯一の方法というわけです。
見た目からは想像もできないほどややこしい感じがしますが、高校生で習う基本的なテクニックだけで解ける良い問題でもあると思います。
素早く解くにはテクニックや問題に対する見極めも必要で、中々面白いです。程々の腕試しとして、新年最初に挑むには良い練習になった受験生も多いのではないでしょうか。
それでは今月はここまで。来月もよろしくお願いいたします。
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