二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』の紹介 - 金沢市・野々市市・白山市の塾なら東大セミナー
2023.11.30保護者通信

二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』の紹介


~数学は分からないけど、

数学の魅力に触れてみたい方へ~

 

皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。

今回は「数学読み物」についてお話します。

 


目次

1.「数学読み物」は案外多い

2.『世にも美しき数学者たちの日常』の紹介

3.~この本の魅力 ~「数学者」という人々~

4.おわりに


 

1.「数学読み物」は案外多い


ここのところ、気になった大学入試問題への解説をする記事ばかり書いておりましたが、この手の記事はとても書くのに時間を要し、かつ疲れる上にPVが増えないという事実に何となく気付きつつあります。

需要自体無くはない(と思っていたい)ので、多分この手の話題は頻度を減らしつつ続くとは思いますが、折角なので今回は趣向を変えてみようと思います。以前、私はこのブログで『数学ガール』という本の紹介をしたことがあります。このシリーズは名著と呼ぶにふさわしい作品だと個人的には思っていますし、今でも折を見ては読み返して楽しんでおります。ですが、この作品以外にも数学というものを題材にした読み物はたくさんあります。

今回はその中から1つをピックアップして、お勧めしてみることにします。今回紹介する『世にも美しき数学者たちの日常』という本は、どちらかと言えば「学生時代数学が苦手で……」という人に向けた本になるでしょう。勿論数学が好きだった人も、取り上げられているトピックの面で色々楽しめるかと思います。

どちらの方であっても、是非最後までお付き合いいただけますと幸いです。

 

 

 

2.『世にも美しき数学者たちの日常』の紹介


まずは、この本の基礎的な情報についてお伝えしましょう。

発行所 ‏ :  幻冬舎

発売日 ‏ : ‎ 2019年4月10日

著者  ‏ : ‎ 二宮敦人

価格   :  710円+税

 

内容としては、作家である二宮氏と、その担当編集者である袖山氏が様々な数学者たちにインタビューを行い、数学の持つ魅力や、数学者たちが見ている世界について迫るというものになっています。

数式はメインで登場することはなく[1]、なるべく平易な言葉で数学の魅力を伝えようとしているので、数学に苦手意識がある方でもニュアンスを掴みやすいと思います。

また、聞き手側である二宮・袖山両氏が「一般人の側」にいることも1つの特徴です。はじめから読んでいくと、二人とも数学に対してはある程度引いた目線を持っていることが分かります。例えば、以下のような発言からも、それが伺えます。

 

“数学者、素数を愛しすぎではなかろうか。

素数は1とそれ自身でしか割り切れない数である。(中略)。確かに特徴的な数ではある。だが、道路標識に素数があったからと言って飛び跳ねるとか、わざわざくじでは素数の番号を選ぶとかいう話を聞くと、ちょっと首をひねりたくなる。創作なのか、はたまた大げさに語られているのだろうか?”

(本書p.18より引用、中略はこの記事の筆者によるもの)

 

余程変わっていない限り、普通の人はある数が素数かどうかなんて気にしないと思います。そして、本書は最初から「気にしない人」の目線で書かれているのです。数学を専門にしてきたわけではない、あくまで一般人の著者が見て、聞いて、感じたことが表現されていますから、こちらとしてもとっつきやすい内容になっているわけです[2]

これによって、例えば途中で分からない数学用語の羅列が出てきても、面食らわなくても済みます。こちらとしても、「まあ書き手も分からなかったってことだと思うし、自分もそれでいいんだよね」と思いながら進めることができます。

それでもちゃんと、最後には数学の魅力について数学者がどう思っているのか、その一端を感じ取ることができます[3]。そして、もしかしたらあなた自身が数学に抱いている感情をガラリと変える契機になるかもしれません。

 

 

[1] 一部登場するところもありますが、意味が分からなくても全体を読むのに支障はありません

[2] 加えて、著者の本職は小説家ですから、その表現の緻密さ・美しさは当然折り紙付きです。

[3] 「数学の魅力が分かります」ではないことに注意。

 

 

 

3.この本の魅力~「数学者」という人々~


この本に登場する数学者は多種多様です。「数学をしている人」がたくさん登場します。年齢で言えば下は中学生から、上は70代近い人までいます。職業で言えば、プロの数学者はもちろんのこと、お笑い芸人や大人向けの数学塾を開催されている方も出てきます。

その誰もが、自分の思う数学を目いっぱいに楽しんでいる。それが、この本を読んでいると伝わってくるのです。

現代数学の先端に携わる人もいれば、教え導くことへの喜びを見出す人もいるし、はたまた古典の数学を突き詰め数学史を掘り下げる人もいます。興味の対象はバラバラだし、語る言葉も違います。でも、彼らは共通して数学を愛し、語ってくれます。好きなものに対する熱量は、文章を読む動機に強く訴えかけてきます。

また、たびたび言及されるのが「数学に対する拒絶」の話です。この本だと、7章の松中先生とゼータ兄貴の話や9章の渕野先生の話は、それが1つのテーマになっていますね。

要するに、数学嫌いの人は、数学というワードだけでもとにかく拒絶してきて、話を聞いてくれない……という悩み。思うに。その背景には学校で習った数学になじめなかった辛さや恨み辛み、たまたま嫌いだった人の得意科目が数学だったことによる逆恨み、何に役立っているのか分からないと納得できない実用主義……色々あるんだと思います。

ですが、この本を読むと「数学はいつでも、誰にでも開かれている」ということが伝わるのではないかと思います。これについて、著者が取材を続ける中で考えたことの中に、なるほどと思った一節があるので引用しましょう。

 

“僕たちはみな、互いにかけ離れた存在である。(中略)。時には宇宙人と同じくらいの距離感があるかもしれない。だが、事実を悲観するのではなく正面から受け止めたうえで、そんな人間同士で手を繋ぐにはどうしたらいいか考えたのが、数学者だったのではないか。

そして決まりが作られ、表現するための数式が生まれた。事実を一つ一つ積み上げて、真摯(しんし)に心と心の間に論理の橋を築いた。”

(本書p.159より引用、中略はこの記事の筆者によるもの)

 

数学者が数式を持つのは、全然違う他人と数学を分かち合うためなんじゃないだろうか、と著者はこの後語ります。私にはその真偽を問うことはできませんし、するつもりもなったくないですが、そうであってほしいなと強く思います。

願わくばこの本を手に取った数学嫌いの皆さんが少しでも、本当にほんの少しでも数学に対して心を開いてくれたらいいなと思って、この本の紹介を終えることにします。

 

 

 

4.おわりに


今回は数学読み物の紹介という形となりました。

次回は、前回【前編】と書いて投げっぱなしにしていたザギエの一文証明について【後編】を書く予定です。

今月も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

また来月、お会いいたしましょう。

 

 

 

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【記事監修者】塾長 柳生 好春


1951年5月16日生まれ。石川県羽咋郡旧志雄町(現宝達志水町)出身。中央大学法学部法律学科卒業。 1986年、地元石川県で進学塾「東大セミナー」を設立。以来、38年間学習塾の運営に携わる。現在金沢市、野々市市、白山市に「東大セミナー」「東進衛星予備校」「進研ゼミ個別指導教室」を展開。 学習塾の運営を通じて自ら課題を発見し、自ら学ぶ「自修自得」の精神を持つ人材育成を行い、社会に貢献することを理念とする。

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