皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。
今月より東大セミナー保護者通信「WHITE BOARD」の方で、教育・入試情報の発信を行って参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
初回となる今回は、大学入試の問題を1つ取り上げ、その魅力や、この1問を通して受験生に身に着けてほしい力を解説して参ります。
目次
今回扱う問題は、名古屋大学の2018年度入試問題より引用致します。文系数学の第2問として出題されたこの問題は、以下のようなものになっています。
難易度としてはあまり難しい方ではないですが、私はこの問題が好きです。
この問題の魅力は、私が思うに以下の2点にあるように感じます。
・(1),(2)と(3)がどのように繋がるのか、見えづらい
・にもかかわらず、(2)は事実として(3)の誘導となっており、それに気づいた時の感動が大きい
どういうことか、次節以降で説明を行います。
まず、先に私が挙げた魅力の1つ、「(1),(2)と(3)の繋がりが見えづらい」ということについて説明いたします。
この記事をご覧の方の中には、既に大学入試を1度経験された方や、或いは現在演習の真っただ中の方もいることでしょう。そしてそういう方々なら分かって下さると思うのですが、(京都大学などの問題を除いて)入試数学には「誘導」がつきものです。誘導の意図は様々ですが、多くの場合は「その大問の最後に問うていることをいきなり聞いても思いつかないだろうから、そのヒントとして具体例や計算ツールを与えよう」という意図があります。
つまり、誘導は誘導然としていることが多いのです。もっと言えば、最初の方の問題が、最後の問題を解くための鍵であることが、なんとなく察せられる作りになっているのです。
ではこの問題はどうでしょう? (1),(2)で話していることはいわゆる「整数問題」です。我々が良く知る整数というものに宿る種々の性質について考察を深める分野です。
これに対して、(3)で述べられているのは、一見すると整数とは別分野の「高次方程式」のことなのです。問題文に「整数」という言葉こそ登場しますが、(2)までの時点では影も形も無かったはずの「3次方程式」が、何の前触れもなく表れたのです。
それまでこの大問を解いていたはずの受験生も、(3)で手を止めたのではないでしょうか。「えっ、俺は整数問題を解いていたはずでは? いつの間に方程式に……?」とばかりに。
そして、誘導がその真意を悟らせてくれないことが、この問題の1つの魅力だと私は考えているのです。流れに乗って解くだけでなく、ここまでの流れがこの先にどうやって繋がるのか、己の手で示して見せよと言わんばかりの出題、とても素敵だと思いませんか?
さて、では先に上げた魅力のうちの2つ目「分かりにくいが、(2)は(3)の誘導となっている」という点についてです。
先の節でも申し上げた通り、この問題は整数がいきなり方程式になった! という部分にとっつきにくさを感じるわけです。では実際、どうやって解けばいいのでしょうか[1]。
ここで鍵となるのは、「3次方程式の解と係数の関係」です。恐らく授業でも扱うはずの、それなりに基本的な性質の1つですが、ザックリ説明すると、「3次方程式の解は多くても3つ[2]だけど、それがどんな数であっても、絶対に満たしている関係がある」というものです。
この方程式の3つの解をx=α,β,γと置き、性質を使って式を立てて計算していくと、以下のような式を得ます。
おお、なんということでしょう。(2)の問題で扱った「あの式」とよく似たものが、まさに目の前に登場したではありませんか! しかも2018は2×1009と表せるから、(2)で分かったことが使えそうではないですか!
あんなに取り掛かりが見えにくかったはずの(3)が、簡単な性質とそれなりの計算だけで、(2)の問題と「同じ議論」に帰着したわけです[3]。ちゃんと勉強した人、或いは日ごろから式変形の訓練を行っていた人にだけ解けるように、絶妙な飛躍を作っていたわけですね。
一見何に使うのかよく分からない誘導を仕掛けておいて、最後にちゃんと誘導でした、と分かる問題は面白いです[4]。文系数学、というところもあって少し簡単めではありますが、少しでも魅力が伝われば幸いです。
この問題に限らず、入試問題には面白いもの(今回のように誘導が秀逸なものもあれば、奇抜なものだったり、数学的に興味深い問題であったり、どう考えても悪問でしかないようなものもあったり)がたくさんあります。
毎記事こうしたものを書くとは限りませんが、また機会があれば入試問題についてお話しできますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
[1] 初見の時に微分で解けないか試してみましたが、計算量がバカみたいなことになりそうだったのでやめました。というか、多分この方針では無理だと思います。
[2] 複素数の範囲で3つ
[3] 実際はこのルートを選ぶと、最終的に解の個数が1個以下であることを示すにはややこしい議論が必要になるのですが、あくまでも今回は「(2)が本当に誘導である」という事実を示すにとどめます。
[4] 類題としては、この前年度である2017年度の名古屋大学文系数学の第3問などが挙げられます。こちらよりは分かりやすいですが、最初何を言ってるのかよく分からない、という状態にはなりやすい問題です。
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