皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。
今回は、「京都大学の文系入試における数学の傾向と対策」についてお話します。
目次
先月の記事でも京都大学の文系入試に関することを書かせていただきましたが、今回はその第二弾というか、前回詳述できなかった点を深掘りしていく内容になります。もちろん、今回の記事だけを読んでいただいても分かるように、前回の内容に軽く触れながら京都大学文系入試の数学について述べさせていただきます。
さて、前回僕が主張したのは「文系こそ数学をやれ!」という話でした。理由としては
・どの文系学部でも、数学は二次試験全体の1/5~1/4程度の配点である(総合人間学部(文系)に至っては、国語や英語の配点よりも数学の配点の方が高い)
この一点を上げさせていただいたかと思います。数学を捨てるということは、つまり入試全体の丸々20%前後を捨てることに直結するわけです。他が100点満点のテストを受けている中、自分だけ80点満点のテストを受けて、かつ他人以上の得点をとらなければならない……。難易度もプレッシャーも高くなるのは間違いないですね。
もちろん英語や国語が人並外れてできるのなら、その一芸に賭けるのもアリでしょうが、そうでないなら数学を捨てるのはリスキーでしょう。
また、これは直接的には入試と関係ない話になるのですが、文系であっても入学後に高校までの数学の素養が問われることはあります。例えば経済学部、教育学部などは(学系等にもよりますが)統計と密接に関わっています。それに、文系学部であっても、卒業のために自然科学に関係する単位の取得は一定数必要になってきます。さらに、数学の基礎となる論理の知識は、「研究」を行う場所としての側面を持つ大学では、文理問わずあるに越したことはありません。
となれば、仮に数学を完全に捨てて大学に合格したところで、その後やりたいことができない、或いは極端に制限される、なんて事態になりかねません。京都大学へ行くこと自体が目的ならそれでもいいかもしれませんが、「実りある学生生活」を求めている人にとっては問題ですよね。
京都大学を目指す前提ならば、数学を捨てるのは入試でも、入学後でも、自分が不利益を被りかねない選択であるということを、意識しておきましょう。文系だから軽視してもいい、なんていうことはまったく以ってないのですから。
ということで、前項では散々、半ば脅しのような言葉を並べ立てたわけですが、実際どういう指針で勉強したらいいのかという話になってきます。
京都大学に限らず、難関大学の入試を突破するために重要なこと。
それは、ズバリ「傾向と対策」に尽きます。その大学がどのような学生を求めていて、何ができれば合格とするのか。入試問題にはそれが色濃く表れます。だから、入試問題を分析して傾向を掴み、その対策をすることでその大学に特化した突破力が身につくのです。(基礎学力があることは前提ですが、そこから)どのように勉強の舵を切るべきか、という指針に「傾向と対策」が必要になってくるというわけです。
さて、前置きが長くなりましたが、京大の文系数学にはどのような特徴があるのでしょうか。3つのポイントに分けてお話していきましょう。
京都大学の過去問を見て真っ先に気が付く点。それは、「誘導」の少なさです。
比較対象として東京大学の過去問を挙げてみます。過去3年分ほどを見渡すと、東京大学の問題には、大問ごとに(1)、(2)のように誘導が付いているものが12個分のうち10個あります。ほぼすべてです。
対して京都大学はというと、誘導付きの大問は過去3年で0個です。1つもありません。「〇〇せよ。また、△△せよ」のように文中に実質区切りがあるようなものはありますが、それも2~3問といったところです。
誘導があるということはつまり、問題を解く指針についてヒントや手助けがあるということになります。ここを発想の源にせよ、ここを解答の足がかりにせよ、と作問者自ら道しるべを置いてくれているのです。それがない、ということはつまり、1から自分で解答を構築するスキルが要求されているということになります。
問題をどのようにこねくり回していくのか。そのために何を使うのか。基礎的な知識はあることが前提で、題意に答えるにはその知識をどう生かすのか、思考力が試されるテストになっているというわけです。
次に分析して分かることは、出題される分野に偏りがある、ということです。入試問題は単純ではないため、単一分野ではなく複合的なジャンルまたがりが発生するということもしばしばですが、それぞれ分解して出現頻度を考えてみると、京大がほぼ毎年必ずと言って良いほど出しているジャンルがあります。
それが「確率」です。過去10年間で実に8年分出題されています。先に述べた誘導がない、という話ともかかわりますが、確率は思考力や概念理解が深く問われる分野です。また、確率漸化式という形で数列分野とも絡みが生まれたり、問題設定から図形や整数の性質を利用することもあったりなど、他分野に跨りうる分野でもあります。
また、「微分・積分」のジャンルも過去10年で8回出題されています。文系の数学では数Ⅱの最後に控える単元であり、一種”ラスボス”のように扱われることも多いですが、文系で習う微積の範囲は、ほんの入門編。むしろ式の意味と計算の仕方さえわかってしまえば単なる得点源となることも多いです。
あとは、「整数の性質」が10年で6回出題されています。整数は「典型問題」とされるもの以外にも様々な出題が考えられ、定理や性質と呼ばれるものも他分野に比べて多いです。前提として持たないといけない知識が多い分野ですが、近年の出題傾向も読みづらいというのが現状で、2020年や2015年のように文系では苦しい難問が出る年もあれば、2021年や2018年のようにサービス問題が出る年もあります。
ほかにも「図形」に関する問題もほぼ毎年出ます。図形は「図形と計量」「図形の性質」「ベクトル」「図形と方程式」「三角関数」(特に「ベクトル」が多い)の分野が絡み合って出題されることになります。誘導がないため、場合によっては何を使って解いたらいいのか指示されません。明示的でなくともベクトルでおいて解いたり、座標平面上において解いたり、発想が試されます。
その他、指数・対数や端的な数と式が出ることもありますが、主によく出てくるのは先に挙げた4つの分野になります。
京大の文系数学は120分で5問を解く形式です。つまり1問あたり平均24分の時間配分となるわけです。実際には5問すべてを解ける人はそういませんから、全体から解けそうな3~4問を見繕って、30~40分ずつを1問に充てる形で解くことになるでしょう。
では、その30~40分間で受験生は何をしなくてはならないのでしょうか。それを紐解くキーワードは「論証力」です。
京大は採点基準を公表していませんが、京都大学のホームページで公開されている出題意図(令和二年度版)によると「論理性、計算力、数学的な直感、数学的な表現といった数学に関する多様な基礎学力を総合的に評価することを念頭において出題」、「論証問題はもちろんのこと、値を求める「求値問題」でも答えに至る論理的な道筋も計れるように出題」と書かれています。つまり、答えを求める”だけ”ではなく、その道中の過程やその論理性がどれくらい正しいのかを評価されるのです。
だから、30~40分ずっと走り書きのような計算をして、最後に求めた答えをポンと書くというのは論外です。それでは、問題を解いたとしても”採点者に伝わらない”のです。伝わらなければ、仮に思考がどれだけ論理的で正しくても採点されませんよね。よくて部分点、悪ければ0点になります。1問にかけていい時間の中で、採点者に自分の考えの筋道が伝わるような答案を作る。それが試験時間の間でやるべきことです(次項で詳述いたします)。
以上の点が、まずは意識するべき場所と言えるでしょう。
先の項で述べた「自分の考えの筋道が伝わるような答案」という代物についてなのですが、結局どうすれば採点者に自分の考えが伝わるのでしょうか。この項では、自分の考えを伝えるためのちょっとした方法についてお伝えいたします。
数学の答案で無意識にやらかしがちなミスとして、未定義のものを答案に登場させるという点が挙げられるのではないでしょうか。例えば、「y=x^3+x+2のグラフをかけ[1]」という問題があったとして、答案をいきなり「y=f(x)のグラフは……」と書き出したらどうでしょう。採点者が「f(x)ってなんやねん」と思っても不思議じゃないですよね。「いやそんなん見たら分かるやん」と思うかもしれませんが、例えば2つ以上の関数が登場する問題で勝手にこれをやると、採点者が本当に混乱するのが分かると思います。
ともあれ、生徒の書いてくれた答案を見ると「このnって何ですか」「このf(x)って何ですか」というようなことがあまりにも多いです。京大受験生にはすでにこれができている人も多いことでしょうが、新しい文字、関数を出すときは必ずそれが何かを書くことを意識しましょう。例えば先の答案ならば「f(x)=x^3+x+2とする」とでも最初に書いておけばいいのです。この1行の手間を省いてはいけません。
[1] 記号「^」は累乗を表します。つまり、今回なら「xの三乗+x+2」と読めます。
京大クラスの問題になると、アプローチの仕方が複数ある難問はザラにあります。その時、どう攻略しようとしたか書くことは、採点官に自分の考えを理解させるために有効だと言えるでしょう。特に「以下、nについての数学的帰納法で示す」、「以下、〇〇が成立すると仮定して背理法で証明する」などの記述は、答案の見通しをよくするためにも”しておき得”です。これはたとえ完答できなかったとしても部分点を稼ぐという視点からも、やっておくべきでしょう。正しい指針には相応に点数がつく可能性があります。
また、これに関連して自分がなぜこの行動をとったのかが分かるようなことを書くということも大切です。例えば、二次関数のグラフを書く問題があったとして、平方完成をした式だけ書いて「よって題意の二次関数のグラフは以下の通り」と書くのはいささか不親切でしょう。平方完成によって分かった「このグラフの軸はx=aなので」とか「このグラフの頂点は(a,a^2-1)なので」とか、そういう言葉を一言加えるだけで「伝わる答案」になるはずです。しつこいくらいに自分がなぜそれをしたのかを書くということを意識してみてください。書かない答案より書いてある答案の方が何かと評価に繋がります[2]。
[2] 私自身の経験で恐縮ですが、完答できた問題は5問中2問程度でも110/150点というスコアを得られました。およそ50点が残り3問の部分点だとすれば、いかに「何かを書く」ということが重要かお分かりいただけるでしょう。
また、やりがちなミスとして「場合分けに穴がある」というものがあります。特に「x<0の場合とx>0の場合だけ記述してx=0の場合を検討しない」とか「場合の数で実は見落としていたパターンがあってその分を数え忘れた」とかいうのが多い気がします。
こういうものを防ぐ方法として最も重要なのは見直しをすることでしょう。特に確率や場合の数は「n回目に〇〇する確率/場合の数」を求める問題が多いですから、n=1,2など実験しやすい場合について具体的な確率を出し、それが一般解と合っているかを見比べてみるというのが有効なこともあります。
数と式での場合分けは特殊な場合のパターンを見落としがちですから、「範囲の両端」「x=0の時」といった場所に関して尽くせているかを見るようにしましょう。
さて、ここまでの話を踏まえたうえで、京大文系数学はどうやって解くのでしょう。そしてそのためにはどういう対策が必要なのでしょうか。
真っ先に思いつく、最も大事なこととしては、過去問演習になります。京都大学の問題の傾向を体で覚えるには、やはり過去問を実際に解いてみて身に着けるのが最も近道です。過去10年分程度を、本番までに2周できるようにというのが目安です。1周目に失敗したところも、2周目できっちり押さえて、穴のない状態で本番に臨めるようにしましょう。
ただし、いきなり過去問演習を行ってもあまり意味はありません。過去問はいわば最終的に解けるようになればよい、ゴール地点、最終ボスにあたるものです。冒険を始めたての勇者が、いきなり大魔王に挑んでも返り討ちに合うのは必至です。だから、まずは装備を整える必要があるわけですね。つまり、過去問に挑んでも、食らいつけるだけの知識をつけることが、まずやるべきことです。
その知識のつけ方は、数学が得意な人と苦手な人で少し分かれることでしょう。以下で、それぞれのパターンについて説明します。
数学がある程度得意な人は、言われずとも高校2年の終わりまでに一通り基本問題は解けるようになっていることと思います。ですから、あとは演習を行うのみです。とはいってもテキストを沢山買う必要はありません。少ないテキストに絞って、繰り返し解く方が定着を図ることができ、結果的に効率が良いのです。
おすすめのテキストとしては、「青チャート」と、「文系数学の良問プラチカ」シリーズになります。受験数学の有名な参考書に数研出版さんの「チャート式」というシリーズがありますが、これは表紙の色で難易度分けされており、白、黄、青、赤の順で難易度が上がっていきます。京大レベルなら、青のレベルが解ければ標準~やや難レベルの問題はバッチリと言えるのではないかと考えます。ただ、得意な人ならばこれだけでは物足りないでしょうから、「文系数学の良問プラチカ」を解くことをお勧めします[3]。難問揃いですが、実際の入試問題から多数収録されており、解説も充実しているため、実際に出うる問題の演習としては最適と言えるかと思います。
[3] 赤チャートをお勧めしない理由としては、「ここまで難解な問題ならば解けなくても入試で困ることはない」という観点と、「解説が少ない」という観点からのものです。青チャートもプラチカも解ききって、過去問演習も終わり、なおまだ数学を解きたい人なら買ってみてもいいのではないでしょうか。
数学に苦手意識がある人は、まずは自分がどの分野に対して苦手意識があるのかを細分化してみましょう。図形、数式、関数、微積……まずは自分が一番苦手な分野を潰しておくことが先決です。もし全体的にどれも苦手だというのであれば、先に述べた出やすい分野に絞って対策を行うのも手です。図形分野については、特にベクトルが問われることが(明示的にもそうでなくとも)多いですから、ベクトルに絞り切ってしまってもよいと思います。
そして、絞った分野に対して、せめて黄~青チャートレベルの問題の解き方と、その解説について理解しておくようにしましょう。本番で全員が取れるところ(=最低限のライン)をとれるようにしておくことが、合格へのカギです。
そして両者ともに大事なことですが、先にも述べた通り、京大数学は「論証力」がポイントになります。答えが出ても、論証できていなければ点数にはなりません。だから、どの問題集を使うにせよ、問題を解くだけで終わらせるのではなく、必ず「なぜそうなるのか」の確認を行ってください。そうしなければ、類題に対応できません。特に、「本質的には基本問題と同じ考え方を使うが、一見しただけでは難しそうに見える問題」が分からないと致命傷です。本番でパニックになっても遅いです。同じ問題は言わずもがな、似た問題にも対応できるように普段から「考え方を見る」習慣をつけておきましょう。
以上、京大数学にはこのように対応していこう、という話でした。
よく俗に言われる言葉に「答案は大学を口説き落すラブレターだ」というものがあります。どういうことか、と思われるかもしれませんね。この文章を読んでくださった方の中には、ラブレターを書いた経験がある方もいらっしゃると思います。きっと、思い人に自分の気持ちが伝わるように、ああでもないこうでもないと思案しながら言葉をひねり出して、渾身の一枚を書き上げるのだと思います。片手間に適当な感じで書く人は、いたとしても少数でしょう。
答案も同じことなのです。決められた時間の中でという制約はありますが、自分の考えをああでもない、こうでもないと思案しながら、自分の考えが伝わるように大学にアピールする。その点では似ているのです。
受験生の皆さん、或いはこれから受験生になる皆さんが、自分の入りたい大学をうまく口説き落せる日が来ることを祈って、この文章を締めたいと思います。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
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