皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。
今回は、「京都大学の文系入試の傾向」と「各科目への向き合い方」についてお伝えします。
目次
1.そもそも京都大学の入試スタイルとは(共通テストと二次試験)
3.ひとまずどの科目から? ~文系だからといって数学を軽視するな!~
京都大学は、京都帝国大学をその前身に持つ大学であり、かつての帝国大学を基とする「旧帝大」と呼ばれる大学群の中では、東京大学に次ぐ2番手の大学であるとされることも多い場所になります。そして、それに応じるように入試の難易度も、並大抵のものではないことが想像いただけるのではないでしょうか。
ですが、単に2番目にレベルが高い、という言葉では、入試がどの程度難しいのかといったことまでは具体的にわからないと思います。そこで今日は、京都大学の入試の形式や傾向を、文系に絞り、データを基にして分析するというテーマで皆様に情報をお伝えしたいと思います。まず注目したいのは、「共通テストと二次試験の配点」についてです。
大学入学共通テスト(旧・大学入試センター試験)は、基本的に大学受験をする者ならばほとんど全員が避けて通ることのできない大きな関門です。毎年1月に、二次試験の前哨戦として、或いはズバリ入試の合否に直結するものとして行われる共通テスト。その利用方法は各大学によって様々です(共通テスト「のみ」を利用するパターンや、共通テストと二次試験のスコアを合計したもので合否を出すパターンなど)。
では、京都大学は一体どのような形式をとっているのでしょうか。
京都大学の文系は、共通テストでは5教科8科目を受験することが求められます[1]。合計点は900点[2]です。一方、二次試験に関しては合計500[3]点(高くても650点)となっております。
「なるほど! じゃあ共通テストの配点の方が高いのか!」と思った方、それは違います。実は共通テストの方の点数は、京都大学では「圧縮」されることになります。大体の文系学部では、配点900点をぐっと押しつぶし、250点分として扱うのです(150点まで圧縮する学部も)。つまり、配点は二次試験の方が圧倒的に高いのです。
つまり、京大に合格したいのなら二次試験のスコアを高めるという意識でいなければいけません。ただし、それは共通テストを軽視していいという意味にはなりません。なぜならば、京都大学には共通テストの得点が一定ラインを越していなければ、二次試験の受験資格をそもそも与えないという、いわゆる「足切り」があるからです。具体的な得点に関しては公表されていないので推測ですが、おそらく多くの学部で得点率80%前後が要求されるだろう[4]、とされています。つまり、いくら二次試験の配点が高いといっても、共通テストで点が取れていなければそもそも受験不可能なのです。
共通テストは二次試験とは時間も、目標得点率も大きく異なります。ゆえに、共通テスト対策と二次試験対策、両方を並行してやりつつも、二次試験の方に時間を割く、そういう動きが必要になってくるのです。
[1] 国語、歴史B科目(世界史B、日本史B、地理Bから1つ)、倫理・政治・経済、数学I・A、数学II・B、理科基礎(物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎から2つ)、英語(リーディング・リスニング)の8科目になります。
[2] 国語200点、社会200点、数学200点、理科100点、英語200点
[3] 国語150点、地歴100点、数学100点、英語150点、文学部の場合
[4] https://dn-sundai.benesse.ne.jp/dn/center/doukou/report/kyoto.html(2021.5.22)
共通テストと二次試験の比率に関してはご理解いただけたかと思います。では、具体的に何を目指していけばよいのでしょうか。合格者最低点と、出題傾向から、何をすると京都大学に合格するのか考えてみましょう。
京都大学は毎年、合格者最低点や合格者平均点を公開しています。それによると、例えば昨年度の文学部は、満点750点中492.33点(65.6%)が最低点、教育学部(文系)ならば、満点900点中580.24点(64.5%)が最低点、のようになっています。大体過去10年を平均すると、得点率60%前後がボーダーのようです。そもそも京大の二次試験で完璧な解答をする、なんていう方が無理な話で、6割もとれれば十分、合格圏内であることが多いのです。ゴールは本番で6割とること、と思えば、1つ具体的な指標となるのではないでしょうか。
ここからは各科目について、出題傾向について考えていきます。特に、全員共通で受けることになる国語、数学、英語に関して述べさせていただきます。
また、多くの文系受験生が選択することになる世界史Bについても少しだけ特徴と傾向に関して記述いたします。
文系の国語は、大問が3つあり、第1問と第2問は現代文、第3問は古文が出る、ということはここ数十年変わらない傾向です。また、第1問は論説文が、第2問は随筆が選ばれることが多いです。変わったところだと、2019年の第2問は2人の作家の対話文であったり、2021年や2008年の第2問は小説であったり、ということもあります。
問題の内容としては、各大問に約5つずつの小問があり、文中に引いてある傍線の場所に関して「これはなぜか」、「これはどういうことか」といった問いを出題することが多いです。直接的に知識を問う問題は、数年に一度漢字が出るぐらいで、ない年の方が多いと言えます。また、京大の解答記述欄はマス目ではなく、1行30字程度が入る解答欄が1問につき3~5行といった形で与えられます。余談ですが20~30年ほど前は解答欄に行の概念がなく、大きな四角い欄がドン、と与えられるのみだったといいます(通称「棺桶」)。
ともあれまとめると、京大は伝統的に現代文では記述を重視しているということです。国語の基本に沿った「解答の根拠を文中から探し、構成はそのままに記述する」といった基本的な事項を押さえていることは前提で、加えて出題される難解な文章をほどくための語彙力が必要です。他の国公立大学を受けるときに比べ、一段上の対策が必要でしょう。
古文に関しては、基本的に学校で「古文」として教わること以上のことは出題されません。ただ、和歌の読解がほぼ毎年といったペースで出題されているため、苦手な受験生でも避けては通れないでしょう。また、2016年や2018年の第3問では、問題文に関連する漢文の読解を要求される問題もあります。古文しか出ないのだろう、と高を括っていると、思わぬ刺客に頬を張られることになります。古文ベースで、漢文も軽視せず取り組みましょう。
文系の数学は、基本的に数学I・A・II・Bの範囲からのみ出題されます。中でも、微分・積分と整数の性質、確率に関係する分野はほぼ皆勤賞と言っても良いでしょう。この中でも特に整数の性質は基礎的な解法を押さえたうえで、発展的に知っておくべき定理や性質(偶奇性の概念やフェルマの小定理など)に関しては押さえておくべきです。
確率はそんなに難しいものは多く出ませんが、2014年に文系ではあまり聞きなじみのない期待値の概念に関して問われたので、余裕があれば教科書のコラム的な部分も押えておくに越したことはありません。微分積分に関しても、奇問や難問の類はあまり出ません(2021年は基礎的な定積分を求める問題が出題されました)。数をこなし、本番でも落ち着いて解けるようにしましょう。
次いで、ベクトルや三角関数、図形と方程式といった分野もよく出ます。上に挙げた3つを対策できたら、こちらにも手をまわしておくのがよいでしょう。
ここ数年で最も大きな変化を遂げた科目と言っても過言ではないでしょう。2015年以前は大問3問構成で、長い英文に傍線部が引かれ「和訳せよ」と書かれた無骨な長文読解が2問(各小問3つずつ程度)と、「以下を英訳せよ」と端的に書かれた和文英訳が1問(小問2つ程度)あるだけでした。
ところが、2016年以降は大問が4問(2019年のみ3問)に増え、出題の仕方も多種多様なものになりました。長文読解では、文章を読み取ったうえでその内容を問われる問題、空欄に当てはまる英単語を埋める問題などが増えました。また、和文英訳は以前から小問1つ減ったものの、依然として存在しています。さらに、新しく大問4として、長い英文/英会話中に適切な英文を補って、文章/会話を成立させるという問題も出されています。さらに変わり種としては、「海外の大学に奨学金を要請する」というシチュエーションだけが与えられて、適切な英文を記述するというハード極まりない問題も。
ある種マクロ的な英語力だけを求められていた以前とは異なり、文法事項や単語などを正確に押さえていなければ突破できない問題が著しく増えました。早いうちに単語と文法事項の習得を終わらせ、英文和訳や和文英訳の練習を重ねることが必要ですが、定期的にタイミングで単語や文法事項の復習もはさみましょう。
京大の世界史は非常に特徴的な問題形式になっております。大問1と大問3は300字記述、大問2と大問4は小問集合となっており、特に300字記述の2つがかなり重たいです。
よく比べられるのが東京大学の世界史記述であり、基本的に東京大学は600字前後の記述問題に指定されたキーワードを用いて取り組むという形になっており、それに比べると京都大学は、指定キーワードはありませんが[5]、1問に対する記述量が少ない分無駄なことを書けないというプレッシャーがあると言われます。正しい論理関係で必要な用語を記述できれば得点(いわゆる加点方式)となると仮定すると、300字という多くも少なくもない絶妙な文字数の中では、シビアに解答の調整が必要になってくるというわけです。
記述は一定幅の時代の「流れ」を書くことになるわけですから、世界史の勉強法の基本に立ち返り、とにかく歴史をぶつ切りにせず流れで覚えることを意識しましょう。歴史は前時代からの連鎖により構成されていますから、前に何があり、よってこの時何が起きたかを人物、出来事、時期とともにしっかり整理していきましょう。
小問集合は私大レベルの超難問はなかなかお目にかかりません。きっちり世界史の用語集や問題演習をこなしていれば、基本は「こんな用語聞いたことないんだが」とはならないことでしょう[6]。
また、大問1と2は東洋史が、大問3と4は西洋史が問われやすい傾向にあります。また、大問4ではそこそこ現代史も問われている(2~3年に1度ほど)ので、幅広く抜けのない知識が問われると言えるでしょう。
[5] キーワード指定があった年もある(2016年など)が、基本はないという意味
[6] もしあったとしたら、それは歴史マニア以外誰も解けていません。安心してください。
さて、先の項である程度の分析を行いましたが、いかがだったでしょうか。手を伸ばす科目が多すぎて、とても大変だと感じたのではないでしょうか。実際その通りで、上に挙げた3教科については高校3年生になる「まで」にある程度の素地ができていないと厳しいですし、これに加えて地理・歴史を1科目やらないといけないわけですから、手を抜いている暇なんてありはしません。
ではその中でも、どの科目から手を付けるべきなのか。その答えはまず国語ということになるでしょう。英語は単語や文法事項等の暗記、地理・歴史も暗記が重要視される科目です。反対に国語の読解力、記述力は一朝一夕で身につくような甘いものではありません。早いうちから徐々にレベルを上げ始めなければ到底、受験のその時に納得いく解答が書けるようにはならないのです。だから、第一に国語のスコアを上げないことには始まりません。何から手を付けるか、と言いましたが、正確に言えば「早くに手を付けないと国語は上がらない」=「やるなら国語から」という論理によるのです。高1からゆっくりと、です。
同じ理由で、英作文の練習も早いうちからできたらよいのですが、これに関しては高3の夏休みより前ぐらいのタイミングからでも十分間に合います[7]。これは、書く量が国語に比べれば少ないのと、ことわざの翻訳等普通ではあまりやらないような英訳に対して、時間内に完璧な解答を仕上げられるような受験生がそう多くないことに由来します。はじめにも言いましたが、6割とれればそれでいいのです。完璧である必要はありません。
同じように、地理・歴史も高校3年に入ってからで十分すぎるほど間に合います。というより、現役生で地歴が完璧に仕上がっているなどほぼあり得ません。よほどのマニアでもない限り、おとなしく他の3教科に時間を割いた方がよいと言え、地歴は最後の最後に追い込んで何とかしよう! とする方が合理的なことが多いのです。
さて、ここまで色々な科目について述べてきましたが、何よりも忘れてほしくないのが数学の重要性です。理系学部ならばいざ知らず、なぜ文系に数学が必要なのでしょうか。実は、数学はどの文系学部でも、二次試験全体の1/5~1/4程度の配点を持っている超重要科目なのです。総合人間学部(文系)に至っては、国語や英語の配点よりも数学の配点の方が高いという、奇妙な現象すら起きています。京大を受けるのなら、たとえ文系であっても数学からは逃れられないのです。言い換えれば、数学ができる文系こそ京大入試においては有利、なのです[8]。
特に、先ほど頻出だと申し上げた整数の性質に関しては、こと他の受験生と差が付きやすい分野になっています。ある性質を知っているか否か、その問題と似た問題を見たことがあるかないか、そのたった1つの経験が合否を分けうる世界です。だから、数学も、国語や英単語・英文法と同じように、決して「捨てる」なんてことをせずに早いうちから取り組んでいくべき科目なのです。
もちろん国語や英語ができていないならそちらを優先すべきなのですが、数学を捨てたら痛い目に合うということを知っておいてください。逆に、もし「自分は文系だけど数学がちょっと得意だ」と思っているのならば、そんなあなたこそ京大の受験に向いているのです。
[7] もちろんそれ以前の段階で英単語や英文法が身についていることは前提。
[8] と、偉そうに言ったものの、2020年のように誰も解けないような難問ばかり出された年だと最終的には他の科目で差をつけるしかないのですが……。
さて、ここまでの僕の記述はあくまでも一つの意見です。当然想定しうる反論として「文系に数学って別にいらんくね?」「受験のためだけに勉強するのは馬鹿らしいのでは……」というものが挙げられます。確かに進学のことだけを考える、ある意味の受験戦略としてはそうでしょう。ただ、折角なので、こういった疑問に関しても僕なりの反駁を用意したいと思います。
まず大前提として、文系でも数学は使います。もちろん大学での教養数学のレベルを超えるような理系の数学は使わないですが、例えば教育学部(主に教育心理学系)や経済学部では避けて通れないのが「統計」という分野です。高校数学で教わるデータの分析を基礎とし、定量的にデータを扱って分析する学問になります。見た目がゴツい数式の意味を理解し使いこなせるようにならなければ、その先に進むことは不可能です。
別に心理学に限らず、何かしら定量的なデータを扱う研究というのは、文系にも無数に存在します。ですから、大学で実りのある学びを得たいと思うのならば、いま高校で教えられているその数学の授業をしっかり聞いておく必要があると言えるわけです。
数学が嫌いだから文系に行きます/行きました、という生徒も確かにいます。ですが、いつ自分がやりたいことに数学が関わってくるか、この情報化社会では分かりません。問題解決のための手法としていつ数学を使う必要が出てくるか、この先行き不透明な社会では判然としません。いつ嫌いだったものが好きになるのか、人間の心は気まぐれです。
若い受験生の皆さんにはまだ経験はないかもしれませんが、親御さんなら納得してくださる方もいらっしゃるかと思います。生きている間に何度あり得ないことが起こるか。必要になってから数学を学び直すというのでは、もしかしたら遅いかもしれない。最低限の素養は、やはり学校にいるうちに鍛えておく必要があるのです。
医学部を受けるのではあるまいし、別に共通テスト9割とか二次対策完璧にとか、そんなレベルで必要なわけではないのですから、今一度文系にも数学が必要である、という事実を認識して頂ければ幸いです。
以上で、京大文系入試に関して知っておいてほしいポイントのまとめは終了です。とにかく今回覚えていただきたいのは、「京大文系は数学がカギとなりうる」という点です。私事で恐縮ですが、僕もまた数年前に京大受験を経験し、そして突破した人間です。その個人としての経験からも、やはり数学が自分を受からせた[9]という実感があるためこの記事を書くに至りました。もちろん経験だけに学ぶのであれば愚者ですが、客観的なデータを基に、数学が決して小さくはない存在であることを知っていただければ嬉しいです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
皆様の今後の学習の手助けになれば幸いです。
[9] 国語が4割5分、英語が6割、世界史が5割とかなり絶望的なところを、数学7割超という強引なつじつま合わせで突破しました。
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