先ごろ、ベネッセの原田泳幸社長が業績不振を理由に退任した。ベネッセというと通信教育講座で有名な教育界の巨人で、マスコミに大きく取り上げられた。退任の報道を聞いて率直なところ唐突感を抱いた。これまで二度お会いして今後のベネッセの方針を熱く語られた姿を目の当たりにしていたからである。就任早々、例の個人情報漏洩事件に見舞われ、ついていないところがあったとは言え、異業種で発揮した経営力に期待した。彼のプレゼンテーションで今もはっきり覚えている言葉がある。「これからの教育界は一社完結型では何もできない」という言葉である。タブレット端末を使った新しい教育形態をフランチャイズ制で全国展開を目論むセミナーでの発言であった。時は退任報道(5月11 日)のおよそ一カ月前、4月13 日であった。退任の理由は業績不振であるが4月の時点で充分予想できていたのではないか。
本誌先月号巻頭言で東セミグループは新しくタブレット端末を使った授業を開始する旨を紹介した。その時点で正式に契約が締結されていなかったのでベネッセの名を伏せてある。タブレット端末の教育ツールとしての可能性はとてつもなく大きい。すでに教材会社や一部学習塾でも開発され限定的に使用されているが中途半端の感をまぬがれない。教育コンテンツ、開発力においてベネッセのシステムが圧倒しており、東セミは7月より金沢校、小立野校(新設)で開始する。時を見て順次、他校舎にも展開したいと考えている。生徒の学習状況が記録として残り、それを活用して生徒1人ひとり課題が明確になる。家庭学習についてもタブレット端末を通して指導でき、これまで以上に生徒に寄り添った指導が可能となるのである。もとより、このシステムが効果的に機能するには多少の時間がかかることを覚悟している。
そういう意味でも、道半ばで原田氏が退任することは残念である。教育システムの定着には時間がかかる。東進衛星予備校の定着には少なくても10年の歳月を要した。情報漏洩で一旦失った信用を一挙に回復する術はない。新たなビジネスモデルで結果を出すにはそれ相応の時間がかかることを経営者、投資家は肝に銘ずるべきである。
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