先日、日本経済新聞のコラム「大機小機」で「事上磨練」という言葉に出会いました。中国の十六世紀の思想家で王陽明という人の言葉です。「人はすべからく事上に在って磨練すべし」ということですが、事上とは実際のことにあたりながら、の意だそうです。これは理念や学問などは決して日常の生活から乖離したものでなく、毎日の生活や仕事の中で自らを磨かなければ成果が上がらないとするものです。王陽明というと他に「知行合一」の有名な言葉がありますが、実践、活学を重視した彼の面目躍如といったところです。
大学生の就職活動も山場を越えたところですが、就職にあたって最近の人は、仕事とは「自己実現」の場と捉える人が多いように思います。自己実現とはマズローの欲求五段階説の最上位に位置づけられるもので最近よく言われるようになりました。これはどちらかというと偏見かもしれませんが舶来の匂いがします。それに対して「事上磨練」の考えは日本人の修行観ともなり、深く根づいたものということができます。「業は行なり」という先哲の言葉もまさに同じ意味に解することができます。
雇用において非正規の割合が増えていますが、人は仕事によって磨かれるとする思想からは望ましい姿ではないとする日経コラム執筆者の主張に頷かざるをえません。
少し前に高校生の最大の悩みは、大学を出た後の就職であるとするアンケートを見ました。目の前にある大学入試より就職とは、と慨嘆したものです。就職難の記事がマスメディアに踊って、高校生にとっても明日は吾が身なのです。しかし今は先を憂うるより目先の勉強に集中しよう。学生にとっての「事上磨練」は勉強によって自己を磨くことです。
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