暗いニュースが続くなかで日本の映画「おくりびと」がアカデミー賞外国語映画賞受賞という明るいニュースが飛び込んできた。監督が富山県高岡市出身ということも嬉しい限りだ。この作品で話題になっている「おくりびと」なる専門の人が存在することについては知らなかった。死を忌み嫌う風習があるなかで大変な仕事という感が強い。
ユダヤ人の葬儀にも同じような儀式があるということで共感性が高かったのでは、という意見があるがはたしてどうなのであろう。ライバル作品が戦争を扱う一方で、「死」という、これまた根源的なテーマを採り上げたことが、厭戦気分の強い審査員から高い評価を得たとの見方がでている。戦争より癒しというわけだ。
私たちの多くは日ごろから「死」というものを真正面から見ることが少ないのではないか。
誰だって「死」は怖いし、できるだけ考えたくないことである。自分はもちろん肉親や愛する人の「死」はもちろんニュースで流れる他人の「死」であろうと同じことだ。しかし考えたくないので考えないということでよいのであろうか。
「生」の延長線上に必ず「死」があり、「死」があるから「生」があるので、「生」を充実させるには「死」というものを考えざるをえないと思う。以前、多趣味で事業欲旺盛な先輩に「死んだら、あとどうなると思いますか?」と訊いたところ、予想通り「灰になっておしまい」の返事がかえってきた。日ごろの言動から自信たっぷりに見えたからだ。
しかしこれでは少し寂しいと感じるのは私だけではあるまい。私のような不届き者は、それなら悪いことしても見つからなければよいのではないか、どうせ死んだら灰になって終わり、といった不埒な考えに至らないだろうか。尊厳なる「死」のあとには「あの世」があっていつか祖先に会えるというくらいに考える方がしあわせだ。
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