先月に紹介した「道元禅師」にひき続き、ドストエフスキー著「カラマーゾフの兄弟」に年末から挑戦した。全5巻の大著で、このたび光文社古典新訳文庫として上梓されたもので、よく売れているらしい。中学生のとき、河出書房から出た「世界文学全集」を親に頼み込んで買ったのはよいが、ついに一冊も読まなかったことを考えると、いま何故ドストエフスキーか、と自分でも不思議だが、気がついたら書店のレジカウンターに3冊抱えて並んでいた。5巻まで買わなかったのは持ち金もあったが、最後まで読みきる自信がなかった、といった方が当っている。
この手の翻訳本というのは岩波文庫に代表されるように、とにかく読みにくく、支え支え読んでいるうちに辟易して、ギブアップということになりがちである。しかし今度の文庫本は違った。何しろ今度の出版のコンセプトは「いま、息をしている言葉で、もういちど古典を」だから、遅読の私でも一気呵成に読めるのである。早く読めるからストーリー展開もはっきり頭に残っており、前部を読み返すこともほとんどなかった。訳文の余りの見事さに、原文の直訳は、はたしてどうなのだろうか、などと気になったりしたくらいである。
内容は、とにかく面白く、前のめりになりながら読んでいくというもので、つまらない本を義務感で読むということと全く別世界のものだった。カラマーゾフの3兄弟はじめ登場人物がいずれも明確な個性を持ち、19世紀ロシアの社会状況、宗教、革命思想、などが登場人物をとおして、生き生きと表現されており、父親殺しというショッキングな事件の真相解明という推理小説的醍醐味も加わり、思わず読者を引き込み、最後まで飽きさせないドストエフスキーの手法に、ただただ感服せざるをえない。それに私達が人生で出会う様々な局面で思い、悩むであろう難題について、是非はともかく興味深い回答が全巻に散りばめてあり、若い人に推薦するしだいである。
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