3年前に父が90歳を目の前にして突如他界した。入院してから2カ月余りであった。私にとって父は大きな存在で喪失感はことのほか大きかった。大学入学時はまだ学生運動が盛んで父と夢の中でその評価をめぐって激論したことも度々あった。思えば反発も含めて父の胸を借りて成長したと言っても過言ではない。
幼き頃より近所の子供と暗くなるまで神社の境内、山、川、海などで遊ぶのが日課で勉強とは無縁であった。一応門限があったがそれを守ることは大変で屡々父の逆鱗に触れたものである。
当然成績は5段階評価で良くて3、ほとんど2であった。成績通知表をもらう日は、父に叱られると思うと生きた心地がしなかった。父は教育ママならぬ教育パパと言ってよかった。当時は冬休み中に「書初め」の課題が出たが、一緒に筆を持って書いてくれたものである。そのためもあって休み明けの「書初め」でいつも金賞か銀賞をもらえた。
そんな父が私に残した言葉でいまだに耳に遺っている言葉の一つに「やればできる」がある。
「お前はやらないからできないのであって、やればできる」の言葉にどれ程の客観性があるか疑わしいが信じているという風であった。不思議なことにそのうち自分の潜在意識のなかに浸透していったような気がするのである。
もちろんこの言葉の危険性も今になって考えると理解できる。プレッシャーに感ずる子供がいても可笑しくない。経験はあくまでその人の経験であり絶対ではない。私の場合は性格がボンヤリしており深く物ごとを思考するタイプでなく、そのことが幸いしたのかもしれない。否、多少のプレッシャーがあったのかもしれないが覚えていないだけかも知れない。
2000年に村上和男(筑波大学名誉教授)先生をお迎えして教育講演会を行ったことがある。
遺伝子工学の世界的権威で、かいつまんで言うと「人間は約60兆の細胞から成るが、その中の膨大な遺伝子の僅か約5%~15%しかONになっておらず後はOFF の状態である」ということである。私たちの遺伝子の中にはまだ目覚めていない良い遺伝子が沢山眠っているということが主張の眼目であった。その主張を上手くまとめて書にしてくださった方がいる。その書は現在金沢南校のエントランスに掲げてある。その書に「感動や志が遺伝子のスイッチをONにする。遺伝子が働けば行動が変わり、習慣が変わり、運命が変わる」とある。
民間教育に携わって35年になるが、多くの人が自ら「自分の可能性、能力に限界を設けている」ことに気づかされる。とても残念なことだ。父の「やればできる」の言葉は怠惰な私を今も叱咤激励してくれているようで懐かしく嬉しい。
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