表題の「相手の心に火をつけること」とは教育の目的としてかつて元京大名誉総長平澤興氏が語った言葉である。世界的な解剖学者として著名であった平澤興氏は中国古典にも造詣が深く、京大の学生のみならず広く世間一般にも多くの影響を与えた人物として知られる。私も学習塾を経営して35年になるが、いま改めてこの言葉の素晴らしさに気づく。注意しなければいけないのは相手の心に火をつけるには、自分自身が燃えていなければならないということである。東大セミナーはつとに「志教育」を謳っているが私たち自身が志を持ってはじめて可能となることは同じ理屈である。およそ教育に携わる者はこのことを肝に銘ずるべきである。
先日、TVドラマ「ドラゴン桜」の最終回を観た。この最終回の視聴率は20.5%であったようだ。この数字はドラマとしては高視聴率ということができる。東大受験という特殊なテーマであったにも関わらずこれだけの高視聴率を獲得したのは、人の心を打つ何か普遍的な価値があるのだろう。私なりに考えるとそれは「努力することの尊さ、価値」ではないかと思うのである。東大合格という結果を目指して生徒たちは紆余曲折を経ながらも努力するわけであるが、結果を出すことの意義のみならず、努力することそれ自体の重要性を桜木先生は教えるのである。
私が一番感動したのは最後に生徒一人一人に桜木先生が、はなむけの言葉を言うシーンであった。生徒一人ひとりの個性を的確に挙げ、それを活かして生きるよう激励するのである。このシーンを観たとき、あの「松下村塾」の吉田松陰をふと思い出した。「松下村塾」の開塾期間は僅か二年余りだった。それにも関わらずあれだけの人材を輩出したのは松陰が塾生一人一人の長所を見抜き励ましたからだと言われている。その指導は一方的なものでなく塾生たちと議論をするものだったようだ。松陰は当時厳禁であったアメリカ渡航を企て決行(失敗)した鬼気迫る熱血漢でもあった。このような松陰だからこそ後に維新で活躍する志士の心に火をつけることができたに違いない。
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