一推し入試問題! ~2020年慶応義塾大学ほか約100年の難問、「バーゼル問題」に挑む!~ - 金沢市・野々市市・白山市の塾なら東大セミナー
2024.08.04一推し入試問題!

一推し入試問題! ~2020年慶応義塾大学ほか約100年の難問、「バーゼル問題」...


皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。

今回は少し趣向を変え、特定の大学の入試問題というよりは、様々な入試問題の題材になっているテーマを取り上げて解説することにします。

その問題の名は「バーゼル問題」。スイスの地名に由来する命名です。バーゼルは、この問題に挑んだ中でも名の知られた2人・ベルヌイとオイラーの出生地であり、彼らを意識してのネーミングです。

さて、実は既にインターネット上には、バーゼル問題の解説記事がたくさん存在しています。入試問題を解説する人って、みんな[要出典]バーゼル問題大好きなんですよね。適度に逸話があり、一見難しく、そして頑張れば高校生でも一応解けちゃう、という三拍子揃った題材だから、だいぶ手垢がついてしまっているのです。

ですから、今回の記事では以下の2点に主題を絞って、なるべく丁寧な記事を心掛けることにします。

 

・そもそも「バーゼル問題」とはどんな問題なのか?(簡単)

・大学入試ではどんな出題がされていたのか?(大変難しい)

 

特に前半部については、あまり数学が得意でない人にも、バーゼル問題の「意味」が伝わるような記事にいたしました。後半部が読み通せなくとも、前半(1,2項)だけでもお読みいただければと思います。

 

 


目次

1.「無限の足し算」の結果はどうなる?~前提知識~

2.バーゼル問題とは?

3.日本女子大学2003年 自己推薦入試での出題

4.慶応義塾大学 2020年 医学部

5.東海大学 2018年 医学部

6.おわりに


 

 

 

1.「無限の足し算」の結果はどうなる?~前提知識~


 

バーゼル問題の解説に入っていく前に、まずは前提知識からお話していきます。

突然ですが、以下の足し算の結果はどうなるでしょう?

 

$$1+2+3+4+5+⋯+10$$

 

手で計算すれば、55という答えが出てくることでしょう。

では次です。以下の足し算の結果はどうなるでしょうか?

 

$$1+2+3+4+5+⋯+100$$

 

これはやや時間が掛かるかもしれませんね。計算機でポチポチやってもいいですし、よく知られたガウスの方法(以前の記事[1]で説明しております)を使ってもいいですが、とりあえず頑張ると5050という結果が分かります。

もっと大きくしたらどうなるでしょう? 例えば1から1000まで足したら? 1から10000まで足したら? ……実際に計算するのはちょっと大変なのでやめておきますが、とにかくどんどん大きな値になっていくはずです。

もう少し格式ばった言い方をしてみるならこうです。

1から\(n\)(\(n\)は1以上の整数とします)までの整数を足した結果を考えます。つまり、次の式の計算結果を考えるということです。

 

$$1+2+3+⋯+n$$

 

この\(n\)に100を代入すれば「1から100までの整数を足した結果」を、\(n\)に1000を代入すれば「1から1000までの整数を足した結果」を表している、という訳です。

さて、この\(n\)に代入する数をどんどん大きくしていくと、「1から\(n\)までの整数を足した結果」も、どんどん大きくなっていくのが分かるでしょうか(具体例で言うなら、「1から100までの整数を足した結果」よりも、「1から1000までの整数を足した結果」の方が大きくなりますよね)。

つまり、「1から\(n\)までの整数を足した結果」は「\(n\)が大きくなるにつれて、どこまでも大きくなり続ける」ということができます。これをすごく直感的に言うと、「1から”無限に”整数を足していくと、”無限に”大きくなり続ける」ということです。

この状況を、記号 を使って以下のように[2]表します。

 

$$1+2+3+⋯=∞$$

 

無限に足したら無限に大きくなる。なるほどその通り、という感じですね。

では次に、「無限に足しているのに、無限に大きくなるのか分かりにくい例」を見てみましょう。

またいきなりですが、次の足し算の結果はどうなるでしょうか?

 

$$1+\frac{1}{2}$$

 

答えは\(\frac{3}{2}\)ですね。では次に、これはどうでしょうか?

 

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}$$

 

さっきよりちょっと大変ですが、頑張って計算すると\(\frac{7}{4}\)です。では、次はこれです。

 

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}$$

 

いい加減飽きたって? まあそう言わずに……。結果だけ書くと、\(\frac{15}{8}\)になります。

さてさて、そろそろ本題に入りましょう。今回考えていただきたいのは、以下の足し算の結果です。

 

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+⋯$$

 

一応確認しておくと、分母が2の累乗で、分子が1の分数を無限に足したらどうなるか? という問いです。さっきと同じで無限に大きくなるのでしょうか?

なるような気もします。ですが、分数は分子が同じで分母が大きくなっていくと、数としてはどんどん小さくなっていきます(例えば\(\frac{1}{2}\)と\(\frac{1}{4}\)なら、\(\frac{1}{4}\)の方が分母は大きいですが、\(\frac{1}{2}=0.5\)、\(\frac{1}{4}=0.25\)ですから、\(\frac{1}{4}\)の方が小さいですよね)。つまり、

 

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+⋯$$

 

という式について、「先の方に行けば行くほど、足す数はどんどん小さくなる」ということになります。めちゃくちゃ小さい数ばっかり足していって、「どこまでも大きくなり続ける」なんてことがありえるのでしょうか?

 

実は、先ほどの足し算の答えは無限に大きくなることはありません。

何故か、ということを厳密に話すと高校数学まで使うので、少し直感的な例でお話します。無限に足す前に、特定の部分まで足し算した結果を求めましたよね?

 

$$1+\frac{1}{2}=\frac{3}{2}$$

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}=\frac{7}{4}$$

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}=\frac{15}{8}$$

 

この計算結果を、こんな風にとらえてみます。

 

\(1+\frac{1}{2}=\frac{3}{2}=\frac{4}{2}-\frac{1}{2}=\)\(2-\frac{1}{2}\)

\(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}=\frac{7}{4}=\frac{8}{4}-\frac{1}{4}=\)\(2-\frac{1}{4}\)

\(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}=\frac{15}{8}=\frac{16}{8}-\frac{1}{8}=\)\(2-\frac{1}{8}\)

 

「どうしてこんな変形をしたのか?」が気になる人も、まずは「この変形が正しいこと」をひとまず納得してもらって、続けていきます。

これを見ると、途中まで足し算した結果は、「2からちょっとした値を引き算した値」になっていることが分かると思います。証明は省きますが、これは偶然ではなく、実際に途中までの足し算は「2から小さな値を引いた値」になります。

より厳密に書くなら、以下の通りです。

 

\(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+⋯+\frac{1}{2^n} =\)\(2-\frac{1}{2^n}\)

 

この式から分かることが1つあります。それは、「どんなに足し算を重ねたとしても、この足し算の答えは絶対に”2よりちょっとだけ小さな値”になる」ということです。
見方を変えると、この足し算をずっと続けると、”段々答えが2に近づいていく”と言うことができそうです。実際、さっきの値達も

 

$$1+\frac{1}{2}=\frac{3}{2}=1.5$$

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}=\frac{7}{4}=1.75$$

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}=\frac{15}{8}=1.875$$

 

と、徐々に2に近い値になっていきますよね。そして、「与えられた数を無限に足したら、”2にどんどん近づいていく”」ということを、以下のように表します。

 

$$1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+⋯=2$$

 

無限に足しているのに、2になるというのがなんとも奇妙な感じがします。でも、これで正しいんです!

ここまでをまとめると、「無限の足し算をしたからといって、無限に答えが大きくなるとは限らない」ということが分かりました。

すると、次に気になることとしては「じゃあ無限の足し算の答えが無限に大きくなるか、そうじゃなく何か特定の値になるのか、どうやって判断するの?」という部分が挙げられます。これには一概にこんな方法を使えばいい、というものがあるわけではありませんが、幾つかの「無限の足し算」(数学的には「無限級数」と言います)はどんな値になるのかが分かっています。

バーゼル問題も、そうしたよく知られた「無限の足し算」の1つです。

 

 

 

[1] 一押し入試問題!~並んだ数を足すとどうなる?~ – 石川県金沢市・野々市市・白山市の学習塾 – 東大セミナー (tohsemi.com)

[2] (初心者ではない人向け)本当は極限の記号を使って表記した方が良いのは承知の上ですが、より直感的な方を使いました。尚、「\(1+2+3+⋯\)は\(\frac{-1}{12}\)になるはずだろ!」と感じる方はこの記事の想定読者層ではありません。

 

 

 

2.バーゼル問題とは?


 

ここでようやく、バーゼル問題の説明に入れます。

バーゼル問題とは、以下の無限の足し算がいくつになるか? という問題です。

 

$$1+\frac{1}{4}+\frac{1}{9}+\frac{1}{16}+⋯$$

 

一見すると何の規則性を持って足しているのか分かりにくいですが、このように書いてみるとより分かるのではないでしょうか。

 

$$1+\frac{1}{2^2} +\frac{1}{3^2} +\frac{1}{4^2} +⋯$$

 

つまり、分子が1で、整数の2乗が分母に来る分数の足し算です。

この足し算、一体どうなっちゃうんでしょう……?

 

この問題に立ち向かった有名な数学者として、スイスのジャック・ベルヌイ(1654-1705)が挙げられます。彼は幾つかの有名な無限の足し算の和を求めた人物であり、現代ではベルヌイ数などに名前を残す有名な数学者です。

とはいえ、彼は結局、具体的にこうなるという値を突き止めることはできませんでした。ベルヌイ自身も悔しいところはあったのでしょう。彼は自らの論文にて、その感情をつづっていました。

 

「誰かが」とベルヌイは書いている.「今までの自分の努力に逆らっているこの値を発見することに成功してそのことを知らせてくれたなら、どんなに有難いことだろう.」[3]

 

要するに「自分はやるだけやったがどうにもならん。誰かどうにかできたら教えて欲しい」と、こんな調子です。当時の高名な数学者に”敗北宣言”をさせるほど、この問題は人々の手を煩わせたのです。

 

人々がこの値を求めようと必死に努力しては失敗し、ついにはベルヌイの死から数十年が経ちました。

その頃には、既に時代の中心は次世代に移り変わっていました。そして、ベルヌイの弟の教え子には、その後「数学界の巨人」として知られる、とある人物がおりました。

その人物の名は、レオンハルト・オイラー。彼の名を冠した業績は現代にも多く、彼の洞察したことは現代数学へつながる重要な道しるべになっています。世界で一番数学の論文を書いた人、としても知られています。

何よりこのオイラーも、先のベルヌイと同じくスイスに、しかも彼と同じバーゼルの街に生まれ、先のベルヌイの弟を師としたのでした。そして彼はこの奇縁に導かれ、同郷の先達が解けなかった難問——つまりバーゼル問題を、非常に大胆な洞察と注意深い検証の下で、ついに解決してしまうのです。

結論から述べてしまえば、彼は以下のような主張を行いました。

 

$$1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+⋯ \\ =\frac{π^2}{6}$$

 

\(π\)というのは皆さんもよく知っているであろう、円周率の\(π\)です。要するに、この足し算の結果は\(\frac{π^2}{6}\)になる、つまり、円周率\(3.1415……\)

を二乗して6で割った数[4]になるとオイラーは主張したのです。

この結果は、当時得られていたこの値の近似値(大体これくらいかなあ、という見積もりの値)とも一致し、またその精度が高かったことから、恐らくは正しい値として知られることになります(後に厳密に正しいことが確認されます)。

まさに先達から受け渡されたバトンを、オイラーは見事に解決したのです[5]

 

さて。歴史的経緯の話はここまでにしましょう。ここで皆さんに質問です。この足し算の結果を見てどう思われましたか? へえー、とか、まあそうなのか、とか、色々感想はあると思います。

私は「非常に意外な結果だなあ」と思いました。

だって、二乗した整数の逆数を足していくだけですよ? それが何故、円周率に繋がっていくのでしょう。ぱっと見は円に何の関係もないはずの足し算なのに[6]

過度に神秘化するつもりもありませんが、この意外な結果そのものには、何となく興奮を覚えてしまいます。

そしてさらに面白いのは、この難問が、現代においては大学入試の「ちょうどいい練習問題」として価値を持つということです。現代的な視点ではバーゼル問題の解決方法は多数知られており、大学入試に出題可能な範囲でも、現在3つの大学が過去にバーゼル問題そのものの出題を行っています(類題まで広げるならもっとありますね)。

ここからは、この3大学の問題を眺めて、どんなアプローチで解いているのかを見てみることにしましょう。

 

以下の記述は、数IIIの微分積分の知識を持っていることを前提とします。

ここまでで充分、という方はありがとうございました。また来月の記事でお会いいたしましょう。

 

 

[3] 記事末尾参考文献、p.18

[4] 大体1.644934……ぐらいの値です。

[5] オイラーがこの答えを発見した方法は少し難しく、また(発見時点の視点では)厳密性を欠いており、説明が大変です。また、そういった事情から大学入試でオイラーの解法が問われることは(多分)ないため、「大学入試の出題と絡める」というこのコラムのテーマとも反してしまいます。なので、今回はオイラーに関する話はこれ以上掘り下げません(この辺の話もめっちゃ面白いので、気になる人は以前にもこの記事群で紹介した『数学ガール』という本を読んでみてください)。

[6] この辺の疑問は、3Blue1BrownというYouTubeチャンネルで視覚的に説明されています。全編英語ですが、一応日本語の字幕を出しながら見れば理解できないことはないと思います(https://www.youtube.com/watch?v=d-o3eB9sfls)。

 

 

 

3.日本女子大学2003年 自己推薦入試での出題


 

表題の通り、日本女子大学の理学部、それも自己推薦枠で出題されたのは以下のような問題です。

 

\(n\)を正の整数または\(0\)とする。次の(1)~(7)に答えよ。

(1)次の式を示せ。

$$\int_o^{\frac{π}{2}}\sin^n⁡xdx  =\int_o^{\frac{π}{2}}\cos^n⁡xdx$$

 

(2)\( I_n=\int_o^{\frac{π}{2}}\sin^n⁡xdx=\int_o^{\frac{π}{2}}\cos^n⁡xdx\)とおく。次の式を示せ。

\(I_n=\frac{n-1}{n}I_{n-2} (n≧2)\)

 

(3)次の式を示せ。

\(I_n
=
\begin{cases}
\frac{n-1}{n}・\frac{n-3}{n-2}・…\frac{3}{4}・\frac{1}{2}・\frac{π}{2}\\(nが偶数のとき) \\
\frac{n-1}{n}・\frac{n-3}{n-2}・…\frac{4}{5}・\frac{2}{3}\\(nが奇数のとき)
\end{cases}
\)

 

(4)\(S_n=\int_o^{\frac{π}{2}}\cos^n⁡xdx\)とおく。次の式を示せ。

\(S_{n-1}-\frac{2n}{2n-1} S_n=\frac{2}{2n(2n-1)} I_{2n}(n≧1)\)

 

(5)次の式を示せ。ただし、\(N\)は整数で\(N≧1\)とする。

$$S_N=\frac{(2N-1)(2N-3)\cdots\cdots\cdot5\cdot3\cdot1}{(2N)(2N-2)\cdots\cdots\cdot4\cdot2} \cdot\frac{π}{4}(\frac{π^2}{6}-\sum_{n=1}^{N}\frac{1}{n^2})$$

 

(6)次の式を示せ。ただし、\(N\)は整数で\(N≧1\)とする。

\(S_N≦\frac{1}{2N+2}・\frac{(2N-1)(2N-3)\cdots\cdots・5・3・1   }{(2N)(2N-2)\cdots\cdots・4・2}  (\frac{π}{2})^3\)

なお、\(0<x<\frac{π}{2}でx<\frac{π}{2} \sin x\)であることを用いてよい。

 

(7)次の式を示せ。

$$\sum_{n=1}^{∞} \frac{1}{n^2}  =\frac{π^2}{6}$$

 

長い。長すぎる。

 

(7)がバーゼル問題の内容そのものですが、とりあえずそこに至るまでの過程が長いです。とはいえ、難易度で言えば、(1)~(3)までが易、(4)が標準からやや難、(5)~(7)はやや易から標準といった感じでしょうか。各小問の軽い説明を乗っけておきます。

 

・(1)は\(\sin\)を\(\cos\)に変えるにはどうしたら、という発想の下で\(x=\frac{π}{2}-t\)の置換を思いつけばそれで終わりです。難関大受験者ならKing Propertyが頭にあるでしょうから、自然とそういう置換を行ったかもしれませんね。

・(2)は地道に部分積分しましょう。(4)に比べれば簡単です。

・(3)は(2)で導出した式を繰り返し適用すればほぼ自明です。

・(4)はやや難しいかもしれません。特に、左辺から右辺へ変形しようと思うと時間が掛かります。右辺の\(I_2n=\int_0^{\frac{π}{2}} \sin^{2n}⁡x dx\)を、\(\int_0^{\frac{π}{2}}(x)^, \sin^{2n}⁡x dx\)と見なして繰り返し部分積分すれば何とかなるでしょう。普段\(log\)のときとかにしかやらないので、ちょっと思いつきにくいかもしれませんね。

・(5)は(4)の結果と(3)の結果を合わせればすぐに分かります。計算はちょっと煩雑です。

・(6)は一瞬戸惑うかもしれませんが、積分区間内でより大きな関数に置き換えた方が、定積分も大きいというだけの話です。

・(7)は\(S_n\)が非負であることを証明できれば、あとははさみうちの原理でどうにかできます。非負であることの証明は、積分区間で被積分関数が非負であることを言えれば充分ですから、あとは頑張って下さい。

 

要するに、長いですが、長いだけで、別にべらぼうに難しいわけではありません。むしろ、素直に計算すればちゃんと解ける良い問題ですね。

さて、この問題の数学的背景には以下の「ウォリスの公式」が関わってきます。

 

 

$$\prod_{n=1}^{∞} \frac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)}\\=\frac{2^2}{1・3}・\frac{4^2}{3・5}・\frac{6^2}{5・7}\cdots\cdots\\=\frac{π}{2}$$

 

これの導出には色々方法があります[7]が、(2)で証明した積分(ウォリス積分)を利用して証明する方法が知られています(脚注の記事でも紹介されています)。また、直感的な理解にはなりますが、オイラーがバーゼル問題を解決するために使った「無限乗積展開」を使う方法も知られており、そういう意味でも関係が深いのです。

ウォリスの公式の、ウォリス積分を用いた証明は高校数学の範囲でもちゃんとできますので、この問題が解けた受験生は是非やってみてはいかがでしょうか。

 

 

 

[7] 『高校数学の美しい物語 ウォリスの公式とその3通りの証明』、https://manabitimes.jp/math/760、2024年6月25日確認

 

 

 

 

4.慶応義塾大学 2020年 医学部


 

次に紹介するのは、こちらの問題です。

 

関数\(f(x),g(x)\)を、\(f(x)=\frac{1}{\sin^2 x},g(x)=\frac{1}{\tan^2 x}\)と定める。

 

(1)定数\(a\)を\(a=(あ)\)と定めると、\(0<x<\frac{π}{2}\)のとき

$$f(x)+f(\frac{π}{2}-x)=af(2x)$$

が成り立つ。

 

(2)自然数\(n\)に対して

$$S_n\\ =\sum_{k=1}^{2^{n}-1} f(\frac{kπ}{2^{n+1}} ),\\T_n \\ =\sum_{k=1}^{2^{n}-1}  g(\frac{kπ}{2^{n+1} })$$

とおく。このとき\(S_1,S_2,S_3\)の値を求めると、

$$S_1=(い),S_2=(う),S_3=(え)$$

である。また\(S_n\)と\(S_{n+1}\)の間には\(S_{n+1}=(お)\)の関係がある。このことから、\(S_n\)を\(n\)の式で表すと\(S_n=(か)\)となる。また\(T_n\)を\(n\)の式で表すと\(T_n=(き)\)である。したがって、\(0<θ<\frac{π}{2}\)に対して\(\sinθ<θ<tanθ\)であることに注意すると、

$$\lim_{n\to ∞} \sum_{k=1}^{2^{n}-1} \frac{1}{k^2} = (く)$$

がわかる。

 

先ほどと同様に、まあ誘導が長いですね。(く)の空欄がちょうどバーゼル問題(と同値な命題)になっています。

日本女子大の問題と違うのは、積分を利用せず、単純な部分和同士の比較に終始しているところですね。これも略解を述べておきましょう。

 

・(あ)は、具体的に左辺と右辺を似た形になるまで(分母が\(sin^{2}x・\cos^{2}x\)になるまで)計算して比較すればすぐに分かります。

・(い)~(え)は(あ)の結果を使って地道に計算しましょう。\(S_3\)を計算する過程で、途中式に\(S_2\)が出てくることに気がつけば後は早いです。

・(お)は(え)の結果を導出する際の過程を一般化してみれば分かるはずです(\(S_{n+1}\)の式の中に\(S_n\)が出てくるため)。(か)は登場した\(S_n\)についての漸化式を解けばよく、しかもかなり単純です。

・(き)が一見どうすればいいか分かりませんが、タンジェントの定義と、二乗に強い三角関数の特性を利用して、\(S_n\)の結果を使えるよう変形してみましょう。

・(く)は、与えられた式から頑張ってはさみうちの原理が使えるように変形しましょう。結論が分かっていると、何かと先が見えて便利ですね。

 

計算量の多さがすべてを物語っています。逆に言えば、正確に心折れず計算できるなら、誰でも解答に辿り着くことはできます。

強いて言うなら(き)がこの問題セットの中ではやや閃きが必要な問題かもしれませんが、積分等でひたすら三角関数の二乗の変形を続けた受験生なら自然な発想のはずですね。

総じて、簡単すぎず難しすぎず、ちょうどいい腕試し問題として成立していると言えるでしょう。

 

 

 

5.東海大学 2018年 医学部


 

最後に紹介するのは、以下の問題です。

 

\(i\)を虚数単位とする。

 

(1) \((1+i)^7=(ア)\)

 

(2) \((\sqrt{x}+i)^7\)の虚部は\(x\)の3次多項式(イ)である。ただし、(イ)は降べきの順に整理して答えよ。

 

(3) \((\cosθ+i\sinθ)^7\)が実数のとき、\(θ=(ウ),(エ),(オ)\)である。ただし、\(0<(ウ)<(エ)<(オ)<\frac{π}{2}\)とする。

 

(4) \(a=\tan(ウ), b=\tan(エ), c=\tan(オ)\)とおき、多項式(イ)を因数分解すると、

$$(イ)=(カ)(x-(キ))(x-(ク))(x-(ケ))$$

となる。ただし、(キ)は\(a\)を、(ク)は\(b\)を、(ケ)は\(c\)を用いて表せ。

 

(5)\( n\)が自然数のとき\((\sqrt{x}+i)^{2n+1}\)の虚部は\(x\)の\(n\)次多項式になる。この多項式の\(n\)次の係数は(コ)、(\(n-1\))次の係数は(サ)である。したがって、

$$\frac{1}{\tan^2 \frac{1}{2n+1} π} \\  +\frac{1}{\tan^2 \frac{2}{2n+1} π} \\  +… \\ +\frac{1}{\tan^2\frac{n}{2n+1} π}\\ =(シ)$$

 

(6)\(0<θ<\frac{π}{2}\)のとき\(\sinθ<θ<\tanθ\)より\(\frac{1}{\tan^2 θ}<\frac{1}{θ^2}<\frac{1}{\sin^2 θ}\)が成り立ち、

$$\lim_{n\to \infty}\sum_{k=1}^n \frac{1}{k^2} = (ス)$$

を得る。

 

誘導が長いですね……。今回は複素数と方程式の知識をフル活用した問題です。これもまずは略解から。

・(1)は馬鹿正直に7乗しても良いと思いますが、ド・モアブルの定理が使える形にすれば楽でしょう(\(\sqrt{2}\)を括りだして、無理やり実部と虚部の二乗和が1になるようにすればよいです)。

・(2)は上記の方法が使えないので、おとなしく7乗しましょう。3乗と4乗まで計算できれば、その積にしてしまえばあとは楽です。わざわざ3次方程式と書いてあるので、答えに\(\sqrt{x}\)が残っていたら何かを間違えていると分かるのも良いポイントです。

・(3)はただ単純にド・モアブルの定理を適用すればよいだけです。典型問題と言えるでしょう。

・(4)は一瞬意味が分かりませんが、(2)と(3)が誘導になっています。

(3)の式を、虚部の係数が1になるように変形していればすぐに(2)の理屈を適用できるはずです。尤も、それが混乱なくすぐに思いつくならすごいと思いますが。

・(5)は二項定理を使えばすぐに分かります。二項定理を思いつかない人は……まあこの問題が出題された医学部の受験者ならいないでしょう。

・(6)は(5)までと同様にサインの逆二乗和を直接考えてもいいですし、変形して(5)で求めたタンジェントの逆二乗和を使えないか考えても良いでしょう。どのみち、ここまでくれば複素数の要素は姿を消しますから、はさみうちの原理で順当に極限をとれば終わりです。

 

計算量も、閃きも、先ほどの2問と比べてさほど大変ではありません。

難易度だけなら、この3問の中ではやや簡単な方に入るかもしれません。しかも、解答欄に答えだけを書く方式のため、途中過程の論理が若干めちゃくちゃでも許されます(これは慶応の問題もそうですが)。医学部を受験する人なら、そうでなくても難関大志望の理系なら、取れてしかるべき問題と言えるでしょう。

 

 

 

6.おわりに


今回は、バーゼル問題に関わる入試問題について紹介してきました。

少しでも、この問題に隠された魅力が伝わったなら幸いです。

とはいえ、実際のところ、この記事からは削った話題も多いです。オイラーが求めたのは逆数の二乗和だけでなく、逆数の偶数乗和一般だったこと。ここで紹介した逆数和とゼータ関数、そしてリーマン予想との関係[8]。何より、オイラー自身がこの問題を解くのに使ったユニークな方法について……。

まあ、これらはインターネット上に様々な解説が溢れています。今回のところはそれらの記事に解説を譲るとして、少しでもバーゼル問題の持つ不思議さや、歴史的な経緯の部分を知っていただければ嬉しいです。

それでは今回の記事はここまで。来月も是非よろしくお願いいたします。

 

<本記事2項における参考文献>

『数学における発見はいかになされるか 第1巻 帰納と類比』、ジョージ・ポリア著、柴垣 和三雄訳、丸善出版、1986

 

 

[8] まあこれは私自身素人なので、適当なことは書けないのも理由ですが……

 

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【記事監修者】塾長 柳生 好春


1951年5月16日生まれ。石川県羽咋郡旧志雄町(現宝達志水町)出身。中央大学法学部法律学科卒業。 1986年、地元石川県で進学塾「東大セミナー」を設立。以来、38年間学習塾の運営に携わる。現在金沢市、野々市市、白山市に「東大セミナー」「東進衛星予備校」「進研ゼミ個別指導教室」を展開。 学習塾の運営を通じて自ら課題を発見し、自ら学ぶ「自修自得」の精神を持つ人材育成を行い、社会に貢献することを理念とする。

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