皆さんこんにちは。
東大セミナーの北川です。
今回は、数学の問題と向き合う時の心得について説明していきます。
「教育の規則の第1は何を教えるかということである。教育の規則の第2は教えることよりほんの少しよけいに知っているということである。」
というのは、ジョージ・ポリア『いかにして問題を解くか』という数学の読み物の一節です。ポリアは数学者であり、特に数学教育の発展に尽力したことで知られる人物です。
教育に携わる人間としては、この「当たり前のこと」を改めて言われるとドキリとしてしまいます。教えるべきことを知っているかどうかというのは当たり前でもないということとか、中途半端に知っていることを教えようとするのはかえって危険だとか、そういうことがこの2文に詰め込まれているわけですから。
さて、この本は先ほども申し上げた通り数学の読み物になります[1]。数学とは公理をスタート地点とし、論理の力で「その公理から何を言うことができるか」を導き出す学問だということができるでしょう。この本の中には、数学において問題を解く時、何に注意を払うのか、或いは教師はどのように生徒を助けるべきなのかということが書かれています。
内容自体は古風な部分もありますが、要所に挟まれる「教師」と「生徒」の対話は、教える側の立場としてはかなり参考になります[2]。また、「どのように問題を捉えたらいいのか」という側面においては、学習する側にとっても読む価値がある部分は多いです。
今回は、このポリアの『いかにして問題を解くか』をベースに、数学の問題を解く時の注意点を説明していきたいと思います。なお、私が読んだ中で特に印象に残った部分をベースとしますので、書籍の内容にすべて触れるわけではないということはご承知おきください。
[1] 巷ではビジネス書とか言われているそうですが、おおよそビジネスの心得を書いた本ではありません。
[2] 実際に似たような躓き方をする生徒も多いです。
数学の問題を見て、最初に思うことは何でしょう。
数学が苦手な生徒に問題を見せると、大抵は「問題の意味が分からない」という旨のことを言います。或いは「問題の意味は分かるけど、何をしたら良いか分からない」と言われることもあります。
問題の意味が分からない、何をしたらいいか分からない。その理由とは何でしょうか?
具体例で見てみましょう。一橋大学2014年の入試で実際に出題された問題です。
「a-b-8とb-c-8が共に素数になるような素数の組(a,b,c)を求めよ」
という、一行問題になります。
意味が分からない子は、例えば「素数ってなんだっけ」となり、そこで思考が止まるわけです。これの解消の方法は簡単な話で、「素数とは1とその数自身以外では割り切れない正の整数」という「定義」を知ればいいだけの話です。「定義にかえれ」とポリアも言います。数学はスタート地点から論理の力で何かを言う営みですから、道に迷ったらスタート地点たる「定義」にかえればいいのです。
では、意味が分かるけれども先に進めない子はどうすればいいのでしょうか。何をしたらいいか分からないとは、例えば今回の問題ならば「素数の定義は知っているが、a-b-8とb-c-8がどうしたら素数になるのか分からない」ということです。
これの解決策は、数学が得意な人の気持ちを考えてみることで紐解いてみましょう。数学が得意な人はまず、この問題の「条件」を確認します。
そして、次に素数に関連する様々な性質を思い出します。以下に挙げるのは今回の問題を解く時に使う内容ですが、実際はもっと多くの条件を思い出して取捨選択を行っています。
そこから、a-b-8とb-c-8が正の整数であることから、a,b,cの大小関係を把握します。「a>b>cになる」という新しい「武器」を手に入れ、他に言えることは無いかを探すと、例えば「2は最小の素数で、a,b,cは素数なのだから、a,b,cのうち2になりうるのはcだけだ」ということが先の性質と「武器」の内容から分かります。
そしてさらに強い「武器」を手に入れ状況を絞って……を繰り返すことで、最終的に具体的なa,b,cの値を得るのです。
ポリアは「条件は何か」という言葉で、問題を見たときの心構えを説きます。それは(あくまで私なりの解釈ですが)問題に書かれていることの条件、そして問題文にある内容に対してどのような性質を知っているか、それらを確認するということではないかと考えます。
今回なら、問題を見た瞬間に素数の性質が何個出てくるか、そこが「条件は何か」のキモではないかと感じます。使う性質も、それ以上の使わない性質も、見た瞬間にどれだけ思い出せるかが鍵なのでしょう。
条件は何か、それを別の言葉で表現できないか、他に知っている性質は無いか。これらを丁寧に確認することが、問題を解く第一歩なのです。
さて、先の節では問題を解くスタート地点の話をしました。
今度は、問題を解くためのゴール地点の話をしましょう。ポリアは、「問われているものは何か」の確認が大切だと説きます。
先ほど具体例として挙げた問題であるなら、ゴール地点は「素数(a,b,c)の値」になります。ゴール地点から思いつくこととして、例えば「a,b,cも素数なのだから、適当なa,b,cを代入して様子を見てみよう」という発想があるでしょう。
適当な数値を代入して一般化を行うことも、数学においては大事な考え方の1つです。
スタート地点を確かめることも大切ですが、ゴールからつじつまを合わせに思考を伸ばすのも同じくらい発想として重要です。スタートからで行き詰まったらゴールへ、ゴールからで行き詰まったらまたスタートに、そしてどこかでスタートとゴールが手をつなげば、それでクリアなわけです。
行くべき場所が不明確なままでは、何を目指したらいいのか分からなくなります。必ず「問われているものは何か」という問いを心の中に抱き続けましょう。
今回のメインの内容は以上になります。これらは、『いかにして問題を解くか』の一部分でしかありません。問題を解く時に何を参考にし、どこに着目するか、より詳しい話が知りたい方は是非ご自身で書籍を購入してみてください。
それでは今回はここまで。読んでくださり、ありがとうございました。
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