近ごろ、人生の処方箋ともいうべき幾つかの考え方に出会った。一つは、いま話題のアドラーという約100年前に活躍した心理学者の「課題の分離」ということである。例えば、勉強しない子供に対して親は何とか勉強させようと様々な対応をすることがあるが、その多くは上手く行かない。何故なら勉強することは子供の課題であり、親が「勉強しなさい」ということは子供の課題に土足で踏み込むことであり、衝突をさけることができないとする。それならば、放任主義で良いのかというと、そうでもなく子供が何をしているのかを知った上で、見守ること。子供が勉強したいと思ったときにはいつでも援助をする用意があることを伝えること、としている。また、誰の課題かを見分ける方法は「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」と考える。こう考えると勉強については明確に子供の課題ということができる。それにより「自分を変えることができるのは自分しかいない」ということが導かれる。
もう一つは複雑系で有名なアメリカのサンタフェ研究所から発信された「カオスの縁」という考え方である。それによると、生命的な現象とは「完全な秩序」(オーダー)でもなく「完全な混沌」(カオス)でもない、その中間にある絶妙のバランスの領域、すなわち「カオスの縁」において生じる。すなわち、複雑系のような「生きたシステム」は、相対立する「矛盾」の狭間の絶妙のバランスの中にこそ出現すると、いうのである。私たちは、とかく物事の解決に当たって二項対立的に考え、そのどちらが正しいかという指向性をもつ。しかし安易な割り切りによってどちらかの選択をするのではなく、矛盾を抱え込むことで生命的な現象、創造的な現象が生ずるというのである。松任在住の有名な挿絵作家、西のぼる氏の「クリエイティブなものは一見、相矛盾する事柄を如何に調和させるかという工夫から生まれる」という言葉や、F・スコット・フィッツジェラルドの「一流の知性とは、二つの相対立する考えを同時に心に抱きながら、しかも正常に機能し続けられる能力である」という言葉が、私の中でつながった。
*参考
岸見一郎・古賀史健著「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」
田坂広志著「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」
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