皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。私事ではありますが、この度東大セミナー部門から東進部門へ異動となりました。もしかすると以降の記事も、中学生や高校生向けのものが増えるかもしれませんが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
今回は、大学入試の問題を1つ取り上げ、その魅力や、この1問を通して受験生に身に着けてほしい力を解説して参ります。
目次
今回題材とする問題は2023年度京都大学の理系第6問です。
ちなみに、文系でも三角関数をベースに似たような調子の出題がありましたが、難易度的には雲泥の差があります。文系第3問は発展レベルでよく見る問題に一ひねり加えただけですが、理系第6問は誘導が機能していないばかりか、あまり深くは扱わない内容をベースとしているため、時間内の完答は厳しかったのではないかと想像できます。
ですが、共に三角関数というものの別々の側面を表している、とても面白い問題でした。
早速、解説に入っていきましょう。
まずは、この問題を分析するところから始めていきましょう。
(1) は、知っている公式を駆使すれば解けるはずですから、大したひねりもない問題です。
問題となるのは(2)です。主要予備校の解答速報では、東進と駿台が「難」、河合塾が「やや難」と判断した問題になりますから、京大の問題であることを加味しても、さらに解きにくい問題ということになります。
この問題が難しくなっている要因とは何なのでしょうか? とりあえず解答を書いてみたので、チェックしてみましょう(趣旨を分かりやすくなるため、答案としては必要な部分を幾つか省略しています。答案の最後などは、より丁寧に説明した方が高評価でしょう)。
[解答]
さて、この解答の鍵となる考え方というのは、答案中に命題(*)という形で示されている内容がすべてです。
ですが、「cosnθは、cosθのn次多項式で表すことができる」という事実[1]は、受験生のどれくらいが把握しているのかは疑問なところです。勿論、よく訓練した受験生であるならば、n倍角の公式としてn=2,3の場合などは頻繁に扱い、覚えてしまっているところはあると思います。とはいえ、これが「一般に成り立つ」ということまで把握している受験生は、それほど多くはないでしょう。
しかも、知らない状況でこれを作り出すのも難しいところです。
いろいろな方針を試すうちに、結局時間が経っていく……ということになりかねません。
しかし、知ってさえいれば話は別です。先の事実を知っていれば、cosnθをcosθに分解していじることを真っ先に考えられます。無論、そこから最高次の係数に着目して矛盾を導くことができるかは別問題ですが、少なくとも入口に立つことはできます。
つまるところ、今回のこの問題を解くことができたかどうかは「cosnθはcosθのn次式で表現できる」という事実を知っていたか知らなかったかに帰着されるわけです。有り体に言ってしまえば、「知識ゲー」です[2]。しかも、参考書にはそんなに載っていない内容[3]を前提とした出題なわけですから、それはそれは高度な知識を要求されているのです。
この多項式そのものについての面白い性質は、この問題を解説している他のサイトに譲ることにして、入試問題としての分析を述べさせてもらいます。
まず、京大の過去5年程度の出題を見てみても、この出題は少し珍しいことのように思えます。これまでに難しい出題がなかったわけではありませんが、結局紐解いていけば発想の源自体は中堅参考書レベルの内容、という年がほとんどです。
2020年度のように多くの受験生を絶望させた年も、2021年度大問6(2)のように糸口が掴みにくい年もありましたが、それらは愚直な思考である程度得点できたり、前提とする発想は知っていたりする問題が大半でした[4]。それだけに、今年の「前提として要求される知識のレベルが高い」というのは類を見ないような気がします。
無論、(1)を誘導として使ってほしいという意図は感じられます。しかし、(1)の内容を見て「あっ、cosnθってcosθのn次式で表せそうじゃん」と思い付く生徒は多くないでしょう。その事実を知っていて、「先頭の係数が2のべき乗っぽいぞ?」と思い付くこと自体はあり得そうですが、少なくとも最も鍵となる性質を導くためのヒントにはならないと考えられます。
ちなみにこの問題が出題された2023年度の問題セットは、大問1~大問4までが完答必至の難易度であり、大問5と6(6はこの問題)の難易度だけ爆発的に高いというレベルでした。
簡単だなんだと揶揄されがちな京都大学の数学ですが、少なくとも理系数学についてはいつでも時間内の完答は困難を極めるような難易度であること、忘れてはなりませんね。
[1] このn次多項式は、「チェビシェフ多項式」として知られています。
[2] まあ、言ってしまえば極論高校数学は定型パターンを覚えるのが前提な気もしますが……
[3] 青〇ャートや〇クシードには、確認した限り未掲載。黒や赤にも載っていなかったような気がします。
[4] それでも2020年度だけはちょっと異次元クラス。演習材料としてはこれ以上ないほど分析のし甲斐がありますが、その年の受験生たちを思うと、可哀想でなりません。
今回は、近年の京都大学の少し変わった問題を扱いました。
知識と発想。今回挙げた、問題を解くうえで鍵となる事実は、果たしてどちらに分類されるのでしょう。私はこの記事中では「知識」派でしたが、これは「試験時間中にこの事実を思いつくことは難しいだろう」という前提の下です。実際、誘導も誘導として機能していないように思える上に、恐らく数学好き[5]の間ではそれなりに有名な内容として知られていることから、なおのことそう思ってしまいます。
しかし、京大がこのような出題をしたのは恐らく、これを「発想」として閃ける受験生を探していたからではないかとも思うのです。理論上は誘導をこねくり回せばいつか思いつくかもしれない内容ではありますし……。
出題者の意図は、どこまで行ってもこちらの想像に過ぎませんから、独りよがりでしかないのかもしれません。しかし、時には問題を離れてこういうことを考えてみるのも、中々楽しいものだと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
来月もお楽しみに!
[5] 教科書や参考書に飽き足らず、例えば数学コンテストの問題などに手を出したり、マニアックな数学の知識を調べたりする人のことを指すとします。
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