皆さんこんにちは。東大セミナーの北川です。
今月のテーマは「数学における暗記と理解」です。最後までお付き合いいただけますと幸いです。
目次
2.パターン暗記は必要。しかしパターン暗記のみで乗り切れるほど甘くない。
見出しにいきなり結論を書いてしまい、申し訳ありません。順を追って説明しますので、興味のある方は是非最後までお読みください。
数学という科目について、暗記と理解の2つを対立させて比較する記事はインターネット検索で多数引っ掛かります[1]。
そして、その結論として「数学は暗記科目だ」というものが得られているように感じました。それも不思議なことに、「暗記は暗記だがパターン暗記をするのだ」という言説が高順位に表示されるように感じます。
それは間違いではない、と思います。ですが「よしっ、じゃあ問題集を眺めて全パターン暗記するぞー」という方向に走るのが本当に正しいかどうかには疑問の余地が残ります。
パターン暗記すると良いことは何で、悪いことは何か、その辺を掘り下げてみたいところです。
とは言ったものの、私自身数学に暗記を持ち込むことが100%間違いだとも思っていません。その理由については後述するとしますが、つまりは暗記のいい点についても取り上げたいわけです。
今回の記事では「パターン暗記の利点と難点」「数学における理解の重要性と、暗記との相乗効果」についてお話しできればと思います。
[1] 何を以って暗記と理解とするかは人それぞれでしょうが、「意味を考えず文字や式の並びだけを覚える」「問題とそれに対応する答えを一言一句覚えるだけ」のようなことを暗記、「式や文字の意味を考えて覚える」「問題に対して答えの導き方やその理由を覚える」ことを理解としている記事が多いように思います。
そもそもパターン暗記とは何でしょうか。別に何かを論ずるわけではありませんが、中心となる言葉の定義が曖昧なまま進むのはちょっといただけないですね。
今回であれば、「問題の解き方の過程を何種類かに大別し、その分類を暗記する」こと、とでも言えましょうか。今回話すテーマを明確にしたところで、この方法の利点と難点を挙げていきたいと思います。
高校数学で「あるある」なのが、「ある事実は知っているけどどんなふうに使うのか分からない」とか、「解説見れば知っていることだけ使っているけど本番では思いつかない」というヤツです。
知っていることとそれを使えることは、また別の話です。例えば、三角関数の相互関係や加法定理を知っていたとして、即座に三角関数の計算問題や式証明が解けるようになるかと言えば、それは違うでしょう。知らなければ一見トリッキーに見える式変形を使う問題もあります。幾つもの問題を解いて、例えば「tanはsinとcosの分数で表してみる[2]」といった「パターン」を得るわけです。
このように「こうすると上手くいく」という経験を積み重ねることで、問題を解く力は上昇します。それは、知識の使い方の例を得ることができるからです。
また、使い方を知って知識を何度も引き出すことで、基礎知識が思い出しやすくなることもあるでしょう。その点では、パターン暗記は非常に有効でしょう。
[2] 尤も、この理解の仕方をするとあまりよくありませんが……(難点の項を読めば理由が分かります)。
さて、利点として語ったことの裏返しになる話を、このパートでは行います。
実際、愚直にパターン暗記だけを行った場合どうなるかというと、「(なぜかは知らないけど)こうすると上手くいく」という理解の仕方に落ち着くことがあります。そうなると定型と全く同じパターンを見た時に対しては非常に強くなりますが、いわゆる「見たこともない問題」を出されるとどうしたらいいのか分からなくなってしまう、或いは間違えてしまうのです。
この手の話で顕著なのが数学的帰納法[3]でしょうか。
よく界隈で「おととい帰納法[4]」とか「人生帰納法[5]」とか、キャッチーな言葉でパターン分けが説明されていることが多い印象です。
それ自体は別に悪くはないのですが、よく生徒が「この問題にはどのパターンを適用したらいいですか?」と質問に来るのです。仮定を幾つ置くのか分からない、そもそも何を仮定すればいいのか分からない、と言うのです。「パターン分けはできたけど、どのパターンを適用すればいいのか分からない」という悲しい沼にはまり込んでしまうわけです。
[3] なんだっけそれ、という人のために一応説明しますと、この記事を読むうえでは「証明の途中で幾つかの仮定を置く、数学でよく見る証明の手法」とだけ把握しておいてください。何一つ本質的な説明ではありませんが、「この記事を読むうえでは」これで充分です。
[4] n=1,2の場合について示し、n=k,k+1の時の成立を仮定して、n=k+2での成立を証明するもの。仮定を2個おくから、「昨日」じゃなくて「おととい」なんでしょうか。
[5] n=1について示し、nがk以下の時の成立を仮定して、n=k+1の場合を証明するもの。k+1以前のすべての数について仮定を置くから「人生」なんでしょうか。
こういった生徒に共通しているのは「どうしてそれを適用したら上手くいくのか、自分の中で落としどころが見つかっていない」という点です。
例えば、先に挙げた数学的帰納法についてなら、「どうしてこの問題では”おととい帰納法”なる考え方を適用するのだろう?」とか、「”人生帰納法”でないとこの問題が解けないのはなぜだろう?」とか、理由への疑問を考えないと知識は身に着きにくいのです[6]。
帰納法のパターンを並べ、類題を眺めて「さっきの問題と何が違って、この問題とどこが一緒で……」と考えてみる。すると「そうか、1つ仮定を置くだけでは式を思った通りに崩しきれないんだ。だから2つ仮定を置くことで、式を理想形に変形していたんだ」と気づけるはずです。そうやって自分の中で「落としどころ」を見つければ、後は誰に教わるでもなく、どのパターンを適用すればいいか分かるはずです。
パターンを覚えて使うだけでなく、何故それがパターンとして確立されたのか、どうしてそれを使うと上手く行くのか。そこを考えることが、パターン暗記を上手く活用する近道です。
[6] 誤解しないでほしいのは、疑問を「解決する」ことは必ずしも必要ではないということです。考えても分からないことは分からない、そういう割り切りが必要な時もあります。大事なのは疑問に対してちょっとだけ自分で考えてみる、という動作そのものです。
今回の文章で述べたいことは上に書いた通りなので、そろそろ締めに入りましょう。
パターン暗記の上手い活用法についてつらつらと書いてみましたが、実のところ、私が伝えたいのはこれだけではありません。
言いたいこと、それは「暗記vs理解のような見方をすべきではない」ということです。
とはいっても、ここまで読んでいただいた方なら暗記と理解は対立軸で語るべきものではない、と私が主張しても、驚かないことと思います。
この記事の中で書いた通り、暗記だけに頼った勉強は危ういです。意味も理解せず、ただ目の前の事象にパターンを適用するのでは、思考方法として役に立たないからです。
どこかで聞いた話ですが、速度の問題に対して、それを「はじき」なんて図に落とし込んで、割合の概念をすっ飛ばすなんていうレクチャー方法があるそうです。それが一概に悪いとは、私は言いません。しかし「時速10kmで15分進んだ時、何km進む?」のような問題に対して「とりあえず距離を求めるなら速さ÷時間だよね、よし15÷10だ」とか、「えーと、まず時速を分速に直して……」とかやられたら泣きたくなります。1時間で10km進むんですから、1/4時間で2.5km……割合さえ分かっていれば困ることないのに。
しかし、理解さえしていればよい、というのも私は違うと思います。
例えば、三角関数には二倍角の定理という超有名&頻出の定理がありますが、二倍角の定理は加法定理という定理から導出できることもよく知られています。
ですが「二倍角の定理は加法定理から導出できる、だから加法定理だけ理解して覚えてればいいんだ」とはならないはずです。なぜなら、二倍角の定理の形そのものを使用する形を、演習においては非常によく見かけるからです。
二倍角の定理は暗記すべきです[7]。無論、二倍角の定理の導出過程や、ひいては基礎となっている加法定理の証明は理解しておくべきです。忘れた時に緊急で導出する助けにもなってくれましょう。でも、それさえ理解していればいいわけではないです。
また、公式の暗記は考える手間を省くうえで非常に重要です。特に、「そこにステップを割くべきではないよね」という部分を飛ばして、本質的な部分に思考のリソースを回せるのは間違いなくアドバンテージです。そういう意味でも、暗記が必要な時があります。
こうして眺めてみると、暗記と理解は両輪であり、相互を補い合っている(というかそうあるべき)ものなのがお分かりでしょうか。
暗記の無い理解では解けない。理解の無い暗記は危うい[8]。
是非皆さんも、二つの軸でご自身を支えながら参りましょう。
[7] というか実情は「使ってるうちに暗記の意思なく覚えてしまう」というものでしょうが。
[8]大学数学はまた事情が変わります。「公式暗記→意味を理解→証明を理解」という流れもまあまあ、あります。とりあえず意味わからんけど覚えて使う、素読のようなことが大事になる世界もあるのです。
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